無意識な差別意識
主人公は、東京から青森に転校した、中学3年生の男子生徒です。
父の転勤による転校で、高校進学のときには、首都圏に戻れる予定です。
つまり青森は、一時的な仮住まいでしかありません。
転校先の中学校には、主人公含め、男性生徒は6人です。
主人公は、何度か転校を経験しているので、人間関係の把握が得意です。
転校早々、
晃は学級の中心的人物だと直感
します。
主人公は、晃との会話で、
「東京って、どった街なんず?」
(中略)
「別にここと変わらないよ。」
「変わらねってことはねぇだろう。テレビさ映る東京は、夢のような街だぜ。」
東京と青森の田舎が、変わらないはずはありません。
では、なぜ主人公は、変わらないと言ったのでしょう。
晃に気を使ったのだと思います。
晃が青森の田舎と東京の違いを知って、東京への憧れを強くしたところで、何も変わりません。晃は田舎から抜け出せませんから。
田舎から抜け出せないのは、主人公以外の生徒も同じです。
主人公は、青森の田舎を下に見ているわけではありません。自分がいる場所ではないと思っているだけです。
自分は残り少ない中学生活を平穏に過ごし、何事もなくこの土地から離れていきたい。高校に入学して半年もすれば、どうせ彼らも渡り鳥のことなど忘れてしまうのだ。
主人公は、自分を「渡り鳥」に例えています。
青森の同級生との交流は、中学卒業までだと思っています。
「渡り鳥」が本書のタイトルでもいいくらい、しっくりきます。青森に転校した主人公の顛末を、「渡り鳥」として表しているからです。
主人公の発言や素行に悪気はありません。
ですが、主人公の態度は、田舎で生まれ育った同級生からすると鼻につきます。
例えば、主人公の、
「僕は一つの土地に留まったことがないから、そういう生活は羨ましいな。」
という発言は、田舎から抜け出したくても抜け出せない同級生の立場を考えていません。
また、
「君達の中学校では、昔からずっとそんなことを?」
という発言は、主人公自身も属している中学校なのに、「君達」と部外者のようです。
主人公からは、無意識に「自分とは違う」「青森は自分がいる場所ではない」が出てしまっています。
だからといって、主人公が悪いわけではないと思います。
環境に染まらない嫌な奴に見えるかもしれませんが、そうなった原因があります。
繰り返される転校です。
――仲良くなっても転校したら離ればなれになってしまう。忘れられてしまう。だったら、いじめられない程度に人付き合いをして、深く関わらないようにしよう。
そうした意識が、主人公にあったのではないかと思います。
原因は、まぎれもなく大人の都合(転勤)です。
調べた言葉
- せせこましい:せまくて窮屈な感じがするさま
- 尻子玉:肛門にあると想像された球。河童に抜かれるとふぬけになると言われる
- 麻幹(おがら):麻の皮とはいだ茎
- 火取虫:火に集まる虫