いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『猿を焼く』東山彰良(著)の感想【選択肢を増やす重要性】

選択肢を増やす重要性

猿を焼く」、強烈なタイトルです。

俊満はその猿を角材で殴り殺した。それでおしまいのはずだった。でもそれではぼくの気がすまなかった

ぼく(主人公)の気がすまなかったから、猿を焼きました。

猿を焼いた動画を、俊満がインターネットに投稿すると、身元が割れた俊満は、警察から指導を受けます。

俊満は主人公の中学の同級生で、高校へは行かず、やくざのような組織に属しています。

一方、主人公は鹿児島の進学校に通っています。父母が住む熊本から離れ、下宿しています。

俊満と主人公の共通点に、同級生の女の子、ユナがいました。

  • 俊満:ユナと付き合っていた
  • 主人公:ユナに好意を抱いている

ユナを中心に、俊満と主人公がいます。

猿を焼くにいたったきっかけは、ユナが殺されたことです。

ユナを殺したのは、ユナの母親のスナックの常連客でした。

常連客の飼っていた猿を、俊満は殴り、主人公は焼きます。

ユナは関係なかった。ぜんぜん関係なかった。俊満はただぼくとはちがうことを証明しようとして猿を殴り殺し、ぼくのほうは彼と同じだということを証明したくて死んだ猿に火をつけた

(中略)

まるで切り札を出すように、俊満が猿の火に煙草を近づけて一服した。ぼくは遅れを取らないよう、彼の勇気を讃えて奇声をあげた

猿に恨みがあるわけでも、猿に飼い主に恨みがあるわけでもありません。

ユナの殺されたことへの復讐ではなく、強者である俊満に認められたい一心で、主人公は猿に火をつけ、奇声を発します。

主人公はユナを好きでしたが、

すこしくらい可愛いからといって、高校へもいかないような女の子に人生をどんっと一点張りというわけにはいかない。ユナに付き合って、自分まであの硫黄臭い温泉町で一生を終えるなんて考えられなかった

主人公は受験勉強に精を出し、鹿児島の進学校に合格します。

町に帰省したときにユナから、

「こんなところで油売っとらんで、ちゃんと勉強せないかんよ

と言われます。

主人公は、町を抜け出す選択肢を持っています。

勉強できるという武器です。

中学の同級生の多くは、町で一生を終えるのでしょう。

町を出る選択肢がないからです。

町に不満を感じていなければどうでもいいのですが、不満を感じたまま一生を終える人を想像するとぞっとします

中学卒業後に、町を出るのは、

  • 進学校に通う主人公
  • 容姿端麗でアイドルデビューした同級生

です。

田舎に幻想を抱くのは、都会にいる人であり、いつでも都会に戻れる人です。

学生が現状から抜け出すには、選択肢が必要です。

選択肢を増やす手段として、勉強は平等に与えられています。

現状に不満がありながら、何もできていない人におすすめです。

群像 2020年 01 月号 [雑誌]

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  • 発売日: 2019/12/07
  • メディア: 雑誌
 

調べた言葉

  • やおら:ゆっくり
  • ごろつき:おどしなどを働くならずもの
  • にぎにぎしい:非常ににぎやかであるさま
  • 恭順:つつしんで従うこと
  • 叙する:文章に表す
  • 久闊:長い間会わないこと
  • うら若い:若くういういしいさま
  • ステアリング:自動車のハンドル
  • 樹幹:樹木のみき
  • 凝(こご)る:かたまって堅くなる