いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『犬馬と鎌ヶ谷大仏』乗代雄介(著)の感想【犬の散歩を最優先する青年】

犬の散歩を最優先する青年

タイトルの「犬馬」とは、「犬馬の労」からきていると思いました。

意味は、「主君のために、力を尽くすこと

  • 力を尽くすのは、主人公
  • 主君は、主人公の飼っている犬(名前はペル)

主人公は、フリーターの25歳です

大学生のときから、キッチンのバイトをしています

バイトの時給は、最低賃金と同じです。

主人公にとって、キッチンのバイトは、やりたい仕事ではありません。

時間を過ぎるのを待っているだけの仕事です。

主人公は実家暮らしのフリーターなので、9時から15時の仕事でも、生活はできるのでしょう。

主人公の優先すべきことは、仕事ではありません。

犬(ペル)の散歩を、何よりも優先して考えます

どうしてそこまで散歩を優先させていたのかは自分でもわからない。ぼくはなんでもペルの散歩と比べるようなところがあった。部活も受験勉強も、ペルの散歩より優先すべきことではなかった

主人公は25歳になり、ペルは老犬になっています。

主人公は、ペルをカートに載せて、散歩します。

ペルのために散歩しているのではないでしょう。

主人公自身のために、ペルの散歩をしています。

主人公が、主君のために、力を尽くしています。

なぜ、そこまで力を尽くすのかは、わかりません。

力を尽くしたからといって、見返りを期待できるわけでもありません。

いや、力を尽くしていることではないのかもしれません。

それに、見返りを期待しているわけでもないでしょう。

ペルの散歩をしたいからする。ただそれだけです。

ペルが亡くなったら主人公はどうなるのだろうと、私は考えました。

小さな頃から優先させてきたペルの散歩が奪われてしまったら、主人公は何をして生きていくのだろう。

ペルと散歩したルートを、ペルのいないカートを押して、回るのかなと思いました。

カートにペルはいないのに、主人公はカートに話しかけたりしながら、生前のペルと散歩したルートを、永遠と回るのだと思います。

みんな、今より先のことを考えながら生きている。昔のことをいつまでも考えているのはぼくだけかもしれない。(中略)ぼくは、ペルがいなくなった先のことは何も考えられない。ぼくの今より先はだんだん短くなって、未来が狭い

主人公は過去のことを考えて生きています。

小学生のときの、クラス発表を思い出しますが、それは現在や未来にはつながりません。

ペルの散歩をしている間、主人公は未来のことを考えずに済むのかもしれません。

散歩をしている間は、現在や、良かった過去を振り返ることができる。

だから、主人公は、ペルとの散歩を何よりも優先させていたのかもしれません。

今より先はだんだん短くなって、未来が狭い」は、主人公の行く末です。

未来が狭い」とは、あり得た未来の選択肢が絞られるという意味でしょう。

このまま、実家暮らしのフリーターを続ける選択肢しか、ないかもしれません。

最低賃金のバイトは、他の人と替えられるかもしれません。

ただ、「今より先はだんだん短くなって、未来が狭い」は、主人公に限ったことではありません。

私も、今より先の人生は短くなるし、未来の選択肢は狭くなっています。

未来が広いのは、たぶん、0歳から18歳くらいまでなんだと思います。