新型感染症の噂で
都心で新型感染症の噂が広まります。
主人公は、首都庁に勤めている職員です。
部署は、総務局行政部市町村課地域連携係。
業務内容は連絡・調整で、悪くいえば単なる伝声管だ。
主人公に、感染症関連の仕事が降ってきます。
鳥の新型感染症の噂に関して。
鳧(けり)という鳥の死骸が、相次いで発見されます。
感染症が発現しているのではないかということで保健所をはじめとする関係機関が検査に乗り出し、一定期間さかのぼって調査したところ、首都圏各地で同種鳥類の回収の数が相当数ある
しかし、感染症は検知されませんでした。
感染症は検知されてないものの、市民は不安を覚えます。
国や都は、感染症がない以上、具体的な対策(鳥の駆除等)はできません。
しかし、ある自治体が対策に踏み切ります。
きっかけは、
鳧と感染症、それから最悪死に至る臨床症状までを医師連盟の名で公表させたのだった。
医師連盟の名での公表は、説得力があります。
正式に「こういう病気があります、こういう症例があります」と言われると、国をはじめ、関係機関の立つ瀬がない。症例なんて大分ぼやかしていて、(中略)読み取りようによっては誰にでも当てはまるようなことが書いてあるだけだ。
何を言ったかではなく、誰が言ったかが、重要なのでしょう。
大切なのは仕組みに適合しているか否かだ。いかなる所管から発出された指示であるか、(中略)事実かどうかは重要ではない。こういうハードルをクリアしていれば、中身がどれほどふざけていても組織は、仕組みはこれを許容する。
- 鳧(けり)という鳥に、感染症は検知されてない
- しかし、自治体の医師連盟が、病気や症例を公表する
- 市民が不安になる
- 自治体が対策に踏み切る
- 国や都も巻き込まれていく
ありもしない感染症に、どうしてこんな振り回されてしまうのでしょうか。
主人公の上司が言います。
国とか首都が本当に適正な処置を検討して実行に移す前に盛り上がっちゃった事案なんだから、もう流れなんだよ。止めようがないんだって。
国や都が検討してる間、先行して対策に踏み切ってしまった自治体が出てしまったら、市民は不安を煽られるでしょう。
国や都が、
- 感染症はない
- 人体への影響はない
を、自治体の医師連盟より先に主張することはできなかったのでしょうか。
- 「感染症がない」とは言えない
- 「人体への影響がある」とは言えない
という言い方(印象)になっていたのかもしれません。
100%否定できない言い方。臆病な言い方。臆病な都市。
臆病なのは、主人公や同僚にも当てはまります。
主人公や同僚は、ありもしない感染症への行き過ぎた対策に、疑問を持っています。
しかし、流れに逆らうことはできません。
声を上げる、反旗を翻す、という行為は、何にもまして大多数の合意のもとに行われなければならない。疑問を持っている職員や住民の数がどれだけいるのかは定かではないが、そう少なくはないだろう。だが、声を上げていないというのは、つまりそういうことだ。どうでもいいのだ。
そう、どうでもいいのです。
感染症があろうとなかろうと、人体に影響があろうとなかろうと、自分の生活に影響が出なければ、どうでもいいのかもしれません。
ぼくの安全と安心が保障されるのなら、他に何もいらない
と、主人公は言います。
どうやったら安全と安心が保障されるのでしょうか。
自分も含めて、誰もがこの線路からはみ出さない限りにおいて、安全と安心を確保できるのだ
線路はレール、比喩でしょう。
レールからはみ出さなければ、安全安心。
私も同様です。職場ではシステムに取り込まれ、歯車として動いてます。臆病です。
システムの暴走は止められないし、声の大きい方に流れてしまいます。ちゃんと給料が払われる限り。