本物の競馬実況
「シヲカクウマ」は、馬の名前で、競馬の出走馬です。
主人公は、「シヲカクウマ」のファンです。
「シヲカクウマ」だけでなく、主人公は馬を愛しています。
馬を愛するがゆえ、主人公はTV局のアナウンサーになりました。
我々が今、実際に目にしている事象、そのありのままの状況を、わたしが誰よりも速く、正確に言葉にしてみせる。本物の競馬実況というものを世界中の人間に理解させる。
それが、主人公がTV局に就職した理由です。
ある日、主人公は競馬に関するニュースをネットで見ます。
九から十へ
(中略)登録馬名の文字数制限が九文字から十文字に変更されました。
登録馬の名前の文字数制限が、9文字から10文字に変わるというものです。
主人公は動揺しますが、競馬中継で関わる同僚に話しても、理解してもらえません。
主人公は主張します。
今後、十文字の馬が際限なく現れ、十文字の名前が大地を全力疾走することになるのです。竜巻程度で済むなら問題ありませんが、ことによっては人類が滅びる可能性まである
同僚たちは理解できません。
私も理解できませんでした。
馬名の文字数制限が、9文字が10文字に変更されて、なぜ人類が滅びることになるのか、さっぱりでした。
主人公の主張は、
- 人類はより長い文字数の名前を馬に求め、馬名のルールが変更される
- 文字数は増え続け、より長い名前を馬に与えることに夢中になる
- 名前をつける行為の本来の意味を見失う
- 人類は言葉と事象を結びつけることができなくなる
- 人類が人類であることを認識する存在が存在しなくなる
- 人類が滅びる
主人公の主張を要約しても、よくわかりません。
馬に長い名前をつけることで、
- 言葉と出来事を結びつけられなくなる
- 人類が人類であることを認識する存在がいなくなる
- 人類が滅びる
文字数制限が1文字増えることで、そこまで変わるものでしょうか。
例えば、文字数制限で連想するのは、X(Twitter)です。
Xの文字数制限140文字が155文字になったら(9文字→10文字の増加率に合わせて、140文字→155文字にしました)。
ちょっとした話題にはなるでしょう。
少なくとも、馬の文字数制限が9から10に変わるよりは、波紋を呼びそうです。
しかし、競馬の登録馬名の文字数が一文字増える結果、人類が滅びるという理屈はわかりませんでした。
馬名のルールが変わったのに、誰もそのことを気にしていないんです。これまでは二文字から九文字の名前の馬しか存在していなかった。それが今では十文字の馬が三十頭を超えてしまった……『いじょう』です。にもかかわらず、『いじょう』なのはわたしのほうなんじゃないかと思うくらい、みんなおそろしいほど……… 『ふつう』なんです。
私も、『いじょう』ではなく『ふつう』に思った人間です(なんでひらがななのかもわかりません)。
『いじょう』だと思う理由を理解したかったのですが、私には主人公の主張がわかりませんでした。
私は小説を読むとき、作品から何かしらの意味を読み取ろうとします。自分の血肉にしてやろうと思います。
しかし、本作からは、何の意味も読み取れませんでした。
タイトルについて、
- 詩を書く馬
- 死を欠く馬
を意味してるのか、
- シヲカクウマ(出走馬)
- しをかくうま(人間?)
を表してるのか、わかりません。
馬が何らかの意思を持ち、人間に乗れと命令していて、自分たちこそが馬に使役されているとは夢にも思わない。
人間が馬に乗らされてるのでしょうか。
そんなことないだろうと思う私は、やはり『ふつう』の人間です。
- 解釈させない
- どうとでも解釈できる
- 解釈を不要と思わせる
それなのに、最後まで読ませてしまう。すごい作品でした。