日雇いと生活保護
私は学生時代、西成に泊まったことがあります。
安かったからです。一泊1200円くらいでした。
治安が悪いことは、なんとなく知ってました。
一泊の値段が破格ですから、理由を調べます。
しかし、背に腹は代えられませんでした。
南千住の格安ホテルにも泊まったことがあったので、大丈夫だろうと思いました。
駅を降りてホテルへ向かう途中、男の怒号が聞こえました。
昼間から何事かと。
歩道で本や雑誌を売ってる人がいて、客と言い合いしてるようでした。
恐くなって、手前のコンビニに逃げ込みました。
夕飯のおにぎりやカップラーメン、飲み物などをまとめて買いました。
ホテルにチェックインしたら、もう外には出てはいけないと悟ったからです。
コンビニを出て外を伺うと、客はいなくなってました。
通行人が行き交ってます。
私はイヤホンをつけて、売り場の前を通りました。
声を掛けられた気もしましたが、イヤホンで聞こえないふりをしました。
ホテルにチェックインしました。
3畳の和室の部屋には、せんべい蒲団が敷かれてました。
大浴場がありましたが、他の客と対面するのが嫌で、行きませんでした。
翌朝まで部屋にこもりました。
外からの物音を消すため、テレビを垂れ流してました。
そんな西成の思い出があります。
本書の紹介で、
国立の筑波大学を卒業したものの、就職することができなかった著者は、大阪西成区のあいりん地区に足を踏み入れた。
とあります。
足を踏み入れただけでなく、現場で働いてます。
現場での私といえば、鈍くさくて覚えが悪くてのろまなデキない奴だった。頭を使う職業とドカタのどちらが上か、という問題ではない。とにかく私はドカタには向いていなかった。
著者は、土木現場やホテルのスタッフとして働きます。
私が西成に一泊した話など、些末に感じます。
ドヤにはヒエラルキーがあったようです。
一番上は日雇い労働者、その下に生活保護がくる。日雇い労働者は生活保護のことを「人生を途中で諦めたドロップアウト組」として見下しているし、生活保護はやはり負い目があり(中略)日雇い労働者の前では大きな顔はできない。
土木現場で一緒に働いてた人(宮崎さん)が、生活保護を受給します。
生活保護を受給した宮崎さんと話すと、
「毎日毎日、山奥の部屋で一日中テレビを見とるだけや。俺、もう気が狂いそうや。(中略)あのときの俺はイキイキしとった。もう勘弁や。生活保護を辞退して石垣島でもう一回肉体労働やるつもりや」
著者はホテルスタッフでの仕事で、生活保護受給者を見てきました。
置物のようになった生活保護たちの姿を思い出す。何もない山奥で置物になってしまった宮崎さんを想像すると、胸が痛んだ。
大変な土木の仕事でも、生活保護を受給して置物になるよりは、ましなのかもしれません。
- 誰にでもできる
- 自分の代わりはいくらでもいる
そんな仕事であっても、ないよりはましなのかもしれません。
ほとんどの仕事が、誰にでもできるような仕事である。自分が普段やっている原稿仕事だって、いくらでも替えが利くのではないかと思う。もちろん、「自分にしか書けない原稿を」と思い、誇りを持ってやっているつもりではあるが、そんなのただのうぬぼれに過ぎない。
私の仕事も、誰にでもできます。
なんでこんな仕事やってんだろうと、思うこともあります。
特に連休最終日は憂鬱です。
しかし今の仕事を続けてれば、西成で日雇い労働することはありません。
怒鳴り声が飛び交い、いつ死ぬかもわからない仕事をやるよりは、恵まれてる気がします。