いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『孤独論 逃げよ、生きよ』田中慎弥(著)の感想【死ぬよりは逃げる道を選ぶ】

死ぬよりは逃げる道を選ぶ

著者の田中さんは、大学受験に失敗して15年、仕事をせず家にいました

朝起きて、食事をして、たまに母や祖父と言葉を交わし、テレビを眺め、窓越しの景色を眺め、本を読み、文章を書く――

そんな生活です。

29歳のときに、書いた小説を新人賞に応募しますが落選。再度チャレンジし、33歳のときに『冷たい水の羊』で新潮新人賞を受賞します

二十代前半のときに書きはじめて、途中で先が続かなくなり、いったん諦めかけたのですが、それでも往生際悪くこつこつ書き進めていきました。結果的に、十年かけて仕上げた作品です。

『冷たい水の羊』の感想はこちらです。

田中さんは、15年間働かず、小説を読み、小説を書き、新人賞を受賞しました

わたしにはできないことがたくさんあった。むしろ、できないことだらけです。その中から、なんとかやれることだけを探してやり続けたことになる。ねちっこくしがみつき、その代わり嫌なこと、気の進まないことには手を出しませんでした。 

その結果、田中さんは、作家という生き方にたどり着きました。

田中さんは、タイトル通り、「逃げて、生きて」を体現しています

高校卒業後の大学受験失敗を機に、

  • 大学浪人
  • 就職、アルバイト

から逃げています。

逃げた上で、自分の生き方を模索し、15年かけて作家デビューしました。

わたしは一人っ子で、加えて友だち関係も途絶えていたので、自分と他人を較べて焦るようなこともなかった

田中さんは、どうしても作家になりたいというわけではなく、なれればいいな程度だったそうです。作家になれなかったら、生活保護受給コースだったかもしれません。

逃れたうえで模索すべきものは、あなたにとって価値ある「なにか」です。

(中略)

もっとも探しやすいのは、社会に出る前、学生時代に自分はなにに興味をもっていたのか、あるいはつかの間でも将来やりたいと考えたものはなかったか、それを洗い出すことです。

田中さんにとっての価値ある「何か」は、「ものを書くこと」でした

田中さんは、毎日机の前に座ることを決め、一行でもいいから書きました。それを続けたことで、作家デビューにつながりました。

――たまたま運が良かっただけではないのか

そんな考えが私の頭をよぎりました。

大学進学や就職から逃げて、人間関係を最小限にし、本を読んで、文章を書き続けること15年間。

田中さんが、新人賞を受賞し、作家として活動を続けているから、逃げてもいいと言えるのではないかと思ってしまいました。

逃げた先に光がなければ、逃げたことを後悔してしまうのではないでしょうか。

田中さんは言います。

死ぬよりは、逃げる道を選んでください

極論ですが、ごもっともです。死ぬより逃げた方がいいのは確かです。

死なないにしても、奴隷であれば逃げた方がいいと、田中さんは言います。

奴隷とは次のような人です。

  • 毎日が残業続きで、起きている時間のほとんどを仕事に拘束されている人
  • 定時退社でも、反論が許されない雰囲気、主体的な思考を拒むような雰囲気が蔓延している職場で働いている人(思考停止、物事を考えるのが億劫)

それでも生活があるから仕方ない、と思ってしまいますが、死ぬよりはましと言われれば、頷くしかありません。

逃げた先に、希望の光はないかもしれないですが、今が無理なら、逃げる方がよさそうです。