細部が気になった
壮大な作品でした。
加藤さんはアイドルなので、そのイメージが先行してしまいます。
アイドルでもこんな作品書けるのかという驚きに、繋がってしまいます。
その驚きはいけない気がします。
アイドルが書いたのではなく、加藤さんが書いた。
いちアイドルとしてではなく、いち作家として、作品を読むべきだと思いました。
難しいことではありますが。
主人公は、テレビ局の社員です。
報道の仕事をしてましたが、イベント事業部に異動させられます。
主人公にとっては、意に反する異動です。
イベント事業部の仕事のかたわら、後輩の企画の実現に、協力することになります。
企画は、一枚の絵の展覧会。
部長は企画に反対します。
展覧会の実現には問題がありました。
- 収益関係
- 権利関係
一枚の絵では、収益につながらないという問題です。
また、一枚の絵を描いた人間がわからないという問題もあります。
権利関係を調べるため、絵の作者を探します。
本作のジャンルはミステリです。
絵の作者を探す過程で、
- 戦争最後の空襲
- 秋田の油田
など、過去の出来事が入り混じります。時代小説とも言えます。
面白かったですし、知らないこと(秋田に油田があったこと、最後の空襲が秋田だったこと)を知るきっかけにもなりました。
不正を暴くことで、罪のない作品にも影響を与える可能性を考えるきっかけにもなりました。
加藤さんの前作『オルタネート』も読みたいと思いました。
一方で、細かいことが気になってしまいました。
素晴らしい作品なのは前提に、気になったことを書きます。
ネタバレを結構書いてるので、お気をつけください。
- 過去の描き方が、現在の主人公にリンクしない
- 過去の出来事を、よどみなく話す登場人物
- 企画の実現や主人公の顛末が、ご都合主義
1について。
私は、主人公であるテレビ局社員の視点で、読んでました。三人称で書かれてるものの、心情が描かれてるので一人称に近いです。
主人公がどうやって絵の権利関係を知っていくのかを、期待してました。
途中で章が代わり、過去が描かれたとき、主人公の視点がなくなります。
過去の章で、過去が簡単に描かれてる感じがありました。
主人公がどうやって過去を知ったか、わからないところもあります。
過去について、主人公の知る情報量より、読者の知る情報量が多い気がしました。
読者である私だけが知って良い情報なのかと思いました。
ミステリ作品なので、主人公はどうやって過去を知ったのだろうと、気掛かりでした。
2は、現代(主人公視点)で描かれる過去についてです。
主人公が、過去の出来事を知る登場人物に会います。
その人物が何十年前のことをはっきりと話す姿に、私は非現実さを感じました。
過去を話すときは、記憶があいまいだったり、間違ってたりすると思います。
しかし、過去をありありと鮮明に話したり、固有名詞(物語の進展に重要な)も覚えてたりするのは、ちょっとやりすぎじゃないかと思ってしまいました。
3は、企画の実現や主人公の顛末の、ご都合主義展開です。
- 部長の交替で、企画の実現がすんなり決まる
- 部長の交替で、主人公が報道局に戻れる
確かに、部長が代われば意向は変わるでしょう。
人事異動もかなうかもしれません。
しかし、なんだかなあと思ってしまいました。
- 部長が交代せず、企画が実現して成功する展開
- 部長が代わらず、報道局に戻れる展開
は、なかったのでしょうか。
とはいえ、主人公のイベント事業部での仕事ぶりは、伝わりませんでした。
記者のように秋田へ行き、実現してない企画のために深入りします。
別の企画の名目で出張してますが、何度も行けるのかは疑問です。
警察や記者ならわかりますが、イベント事業部の職員だから気になりました。
上司からしたら、イベント事業部の仕事してくれと思う気がします。
壮大な作品だからこそ、細かいところが目についたのかもしれません。
いろいろ書きましたが、すごい作品でしたし、ラストはうるっときました。