いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『##NAME##』児玉雨子(著)の感想【交換可能な名前】(芥川賞候補)

交換可能な名前

主人公のジュニアアイドル時代と、アイドルを引退した後の大学生時代を描きます。

帯には、

私の過去は、”現代の闇”なのか?

でもそれは、あまりにまぶしい闇だった。

「現代の闇」とは、どういうことでしょうか。

セックスを強要されたりヌードになっていたりしたわけじゃなくて、制服の下にスクール水着を着せされて、ホースからの水を浴びながらそれを脱いでゆく撮影が数回あったんです

主人公は、ジュニアアイドル時代(小学校高学年から中学生)、水着姿で写真を撮られたことがありました。

スクール水着はお腹が出ない、学校でも着るものだから大丈夫だと思っていたのですが、それ自体が性的な目的であったことに大人になってから気づきました

他者が闇と言うことで、楽しかった過去の思い出が、闇かもしれないと思わされてしまいます。

帯にあるように、主人公にとっては、「まぶしい」闇でした。

自分では良かった過去なのに、他人から悪く言われてしまうと、良くないものだったかもしれないと、思わされてしまう。

主人公は、ジュニアアイドル時代、仲の良かった友達がいました

その友達は、主人公にあだ名(名前)を付けてくれました

主人公は、そのあだ名を気に入りませんでした。

友達も自分自身にあだ名をつけており、その名前で呼ぶよう主人公に言うのですが、主人公はあだ名で友達を呼びませんでした。

タイトルの「##NAME##」とは、

あなたの名前は何ですか? 空欄の場合##NAME##と表示されます

と、主要人物の名前を自由に決められる、ネット上の小説に関連しています。

主人公は名前をつけず、「##NAME##」として作品を読みます。

ある日、「##NAME##」として読んでいた作品の作家が、児童ポルノ法に抵触し、逮捕されます。

作品は悪くないのに、作家が児童ポルノに抵触した途端、作品から遠ざかっていくファンがいます。

主人公もその一人でした。

作家が児童ポルノ関連で逮捕された直後、作品をまとめてメルカリに出品しました。

一方で、家庭教師をしている主人公は、ジュニアアイドル時代の写真を理由に、生徒の親から契約を打ち切られます。

あの時の私たちも児童ポルノの「児童」だったのだろうか。どうしてどんな写真や動画が法に触れるのかばかり気にして、そこに写っている「児童」について誰も言及しないのだろうか

そこに写っている「児童」について誰も言及しないのは、「児童」が、誰にでも置き換えられる存在=「##NAME##」だからだと思います。

名前は何でもいいのでしょう。

  • ネット上の小説の登場人物
  • 児童ポルノに写っている児童
  • 友達のあだ名
  • この小説のタイトル

名前は、他のものに取って替えることができます。

大事なのは「##NAME##」の本質であって、付与された名前ではないでしょう。

しかし、ジュニアアイドル時代の名前のせいで、主人公は家庭教師のバイトもままなりません。

主人公の本質より先に、スクール水着で写真を撮られていた元アイドルとして、目立ってしまいます。

今後の就職活動にも響くかもしれません。

名前を透明に近づけるほど、マイナスの要素はなくなります。

ジュニアアイドル時代の友達は、交換可能な名前(あだ名)を、主人公に付けてくれていました。

それだけが救い。それこそが救いでした。

ただ最後の一文が、詩っぽくて、いらないと思ってしまいました。

##NAME##

##NAME##

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