殺意と自殺の理由
感想①はこちらです。
読み終わってからも、頭に残ります。
観念的な内容が多く、私が読み解けてないから、頭に残ってる気がします。
いつもなら、感想を書いたら次の作品を読むのですが、この作品がこびりついて、次の作品へ移行できません。
なので今、思いついたことを書いてるところです。
疑問に思う点は、いくつもあります。
- 主人公が、同級生(北条)を殺そうと思った理由
- 美術部の先輩が、主人公の殺意に気付いた理由
- 同級生が、主人公の殺意に気付いた理由
- 主人公が同級生(北条)を殺さない理由
- 主人公が自殺する理由
漠然と思い浮かぶ内容はありますが、言い切れる自信はありません。
作者は、意味や理由を気にせずに書いたのかもしれません。
しかし私は、意味や理由が気になってしまいます。
選評で大澤信亮さんは、
物語としても、愛した相手が思うようになってくれなかったので、殺そうとしたが殺せず自分が死ぬという、言ってしまえばどうでもいいようなもの
と書いてます。
物語的にはどうでもいいのかもしれません。
金原ひとみさんは、
北条は同じ美術部の山中と付き合い始めてしまい、速水は激しく動揺する
と書いてます。速水は主人公、北条は同級生です。
北条が山中(女子生徒)と付き合ったことは、主人公に殺意を抱かせるきっかけにはなったと思います。
主人公は、北条の美しさに惚れています。
北条の美しさは外観だけではなく、無関心そのもの。彼の心の有様こそが、速水が描くべき敵であり、今立ち向かいたい完全なる美である。
無関心であるはずの北条が、山中に関心を抱いてしまう。
主人公が北条に、山中と付き合った理由はないのかと聞くと、
そうだね。ないのかもしれない
(中略)でも、恋ってそういうものだろう
と言われます。
主人公にとっての北条の美が、崩れるきっかけにはなったでしょう。
主人公は見ることしかできません。
海を眺めるのみで入水せず、山は描くのみで登ることはない。
(中略)失恋の悲しみや、失意の怒りによって、何もかも滅茶苦茶にしてしまおうかと思ったが、感情に身を任せるには、感情があまりに不甲斐ない。
- 主人公の描いた絵を燃やす
- 主人公が同級生(北条)を殺そうとする
は、「何もかも無茶苦茶」にしようとしてるものの、感情によるものではない、ということかもしれません。
美術部の先輩は主人公に言います。
破滅を意識することで初めて行動的になれる。破滅だけが永遠性を保証してくれる。だからこそ君は、滅びを前提としない美しさや、幻滅を前提としない恋愛を、もはや信用できなくなった。
美術部の先輩は、主人公が絵を燃やすのを目撃します。
美(北条)を描いた絵を燃やすことが、北条への殺意につながると、美術部の先輩は推察したのでしょう。
- 美(北条)を書いた絵を燃やす
- 美である北条を殺す
これらは破滅と言えます。
破滅させることで美の永遠性を保証するのが、主人公の意図だと思いました。
美術部の先輩は、
美の側面に醜悪があった。それを裏切りと捉えるのは自惚れがすぎるよ
と主人公に言います。
確かにそのとおりだと思います。
主人公は、美しいと思った同級生(北条)を描きました。
同級生は、主人公の絵に協力しただけです。
同級生は、主人公の期待を、知らずに背負わされて、勝手に幻滅されてしまいます。
挙句の果てには殺されそうになります。
ですが、同級生は主人公の殺意に気付きます。深夜3時にフェリーの甲板に呼び出されるなんて、明らかにおかしいです。
北条は俺の殺意に感づいた! 少なくとも俺に殺されることを理解した。
主人公は同級生を殺すことをやめます。
その後主人公は、フェリーから真夜中の海に飛び込みます。
海は滅びの象徴にも思えるのに、決して滅びることがない。
(中略)海は絶対に、俺と共に死んではくれない。
なぜ、主人公は海に飛び込むのでしょうか。
主人公の観念的な自白がありますが、主人公が深夜の海に飛び込む理由は理解できませんでした。
もし海が俺を見捨てるのなら、俺のみを殺すのなら、ここまでの全ての幻想も幻滅も行動も、何一つなくなる。
主人公は、自らの破滅という対価を支払ってでも、海の美を実現させたいのでしょうか。
主人公が海に飛び込ばずとも、海は人間に関心を寄せることなく存続すると、わかるはずです。
それか、主人公に希死念慮があり、自殺の言い訳なのでしょうか。
主人公の行動がわかりませんでした。難しかったです。