いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『海を覗く』伊良刹那(著)の感想②【殺意と自殺の理由】(新潮新人賞受賞)

殺意と自殺の理由

感想①はこちらです。

読み終わってからも、頭に残ります。

観念的な内容が多く、私が読み解けてないから、頭に残ってる気がします。

いつもなら、感想を書いたら次の作品を読むのですが、この作品がこびりついて、次の作品へ移行できません。

なので今、思いついたことを書いてるところです。

疑問に思う点は、いくつもあります。

  1. 主人公が、同級生(北条)を殺そうと思った理由
  2. 美術部の先輩が、主人公の殺意に気付いた理由
  3. 同級生が、主人公の殺意に気付いた理由
  4. 主人公が同級生(北条)を殺さない理由
  5. 主人公が自殺する理由

漠然と思い浮かぶ内容はありますが、言い切れる自信はありません。

作者は、意味や理由を気にせずに書いたのかもしれません。

しかし私は、意味や理由が気になってしまいます。

選評で大澤信亮さんは、

物語としても、愛した相手が思うようになってくれなかったので、殺そうとしたが殺せず自分が死ぬという、言ってしまえばどうでもいいようなもの

と書いてます。

物語的にはどうでもいいのかもしれません。

金原ひとみさんは、

北条は同じ美術部の山中と付き合い始めてしまい、速水は激しく動揺する

と書いてます。速水は主人公、北条は同級生です。

北条が山中(女子生徒)と付き合ったことは、主人公に殺意を抱かせるきっかけにはなったと思います。

主人公は、北条の美しさに惚れています。

北条の美しさは外観だけではなく、無関心そのもの彼の心の有様こそが、速水が描くべき敵であり、今立ち向かいたい完全なる美である

無関心であるはずの北条が、山中に関心を抱いてしまう。

主人公が北条に、山中と付き合った理由はないのかと聞くと、

そうだね。ないのかもしれない

(中略)でも、恋ってそういうものだろう

と言われます。

主人公にとっての北条の美が、崩れるきっかけにはなったでしょう。

主人公は見ることしかできません。

海を眺めるのみで入水せず、山は描くのみで登ることはない

(中略)失恋の悲しみや、失意の怒りによって、何もかも滅茶苦茶にしてしまおうかと思ったが、感情に身を任せるには、感情があまりに不甲斐ない

  • 主人公の描いた絵を燃やす
  • 主人公が同級生(北条)を殺そうとする

は、「何もかも無茶苦茶」にしようとしてるものの、感情によるものではない、ということかもしれません。

美術部の先輩は主人公に言います。

破滅を意識することで初めて行動的になれる破滅だけが永遠性を保証してくれる。だからこそ君は、滅びを前提としない美しさや、幻滅を前提としない恋愛を、もはや信用できなくなった。

美術部の先輩は、主人公が絵を燃やすのを目撃します。

美(北条)を描いた絵を燃やすことが、北条への殺意につながると、美術部の先輩は推察したのでしょう。

  • 美(北条)を書いた絵を燃やす
  • 美である北条を殺す

これらは破滅と言えます。

破滅させることで美の永遠性を保証するのが、主人公の意図だと思いました。

美術部の先輩は、

美の側面に醜悪があったそれを裏切りと捉えるのは自惚れがすぎるよ

と主人公に言います。

確かにそのとおりだと思います。

主人公は、美しいと思った同級生(北条)を描きました。

同級生は、主人公の絵に協力しただけです。

同級生は、主人公の期待を、知らずに背負わされて、勝手に幻滅されてしまいます。

挙句の果てには殺されそうになります。

ですが、同級生は主人公の殺意に気付きます。深夜3時にフェリーの甲板に呼び出されるなんて、明らかにおかしいです。

北条は俺の殺意に感づいた! 少なくとも俺に殺されることを理解した

主人公は同級生を殺すことをやめます。

その後主人公は、フェリーから真夜中の海に飛び込みます。

海は滅びの象徴にも思えるのに、決して滅びることがない

(中略)海は絶対に、俺と共に死んではくれない

なぜ、主人公は海に飛び込むのでしょうか。

主人公の観念的な自白がありますが、主人公が深夜の海に飛び込む理由は理解できませんでした。

もし海が俺を見捨てるのなら、俺のみを殺すのなら、ここまでの全ての幻想も幻滅も行動も、何一つなくなる

主人公は、自らの破滅という対価を支払ってでも、海の美を実現させたいのでしょうか。

主人公が海に飛び込ばずとも、海は人間に関心を寄せることなく存続すると、わかるはずです。

それか、主人公に希死念慮があり、自殺の言い訳なのでしょうか。

主人公の行動がわかりませんでした。難しかったです。