母の死に際
主人公は、飲み屋で働く20代後半の女性です。
歓楽街やコリアンタウンの近くに住んでいます。
母の要望で、母は主人公の部屋に移り住みます。
しかし、すぐに入院してしまいました。
母の命は長くないです。母に付き添うため、主人公は飲み屋を辞めます。
仲が良いかというと、そうでもなさそうです。
母はかつて、火のついたタバコを主人公に押し付けました。
母に焼かれたのは二の腕と肩だけだ。(中略)十八になってすぐに刺青で覆うことにした。
主人公が母と一緒に住んでいたのは、17歳まででした。
母一人で主人公を育て、父とは一緒に住んでいませんでした。
母が入院中だと知って、還暦くらいの男が病院に現れます。
男は母の昔の知り合いでした。男は、
お母さんには、会えないだろうと思っていたんです
と言い、紙袋を主人公に渡します。
お母さんと初めて会ったのはあなたが生まれる前なんです
母は若い頃、劇団員をしており、男は当時の母のファンだったようです。
僕はお母さんがいる日にはなるべく観に行くようにしていました。
私は、男が主人公の母を「お母さん」と呼ぶのに違和感がありました。
主人公を生む前の母のファンだったら、「お母さん」ではなく「○○さん」もしくは「○○ちゃん」と、名前で呼ぶと思います。
別の場面で、青果店の店員のおばさんに、客であるサラリーマンが「お母さん」と呼びかけることに、主人公は言及しています。
私は自分の母親ではない人に「お母さん」と呼びかけられるようには育てられなかった。かつて私の身体を所有していた母親を意味するその言葉はあまりに意味を帯びすぎる。
意味を帯びすぎるというわりに、母のファンだった男が、主人公の前で、母のことを「お母さん」と呼ぶことに、主人公は何も言及していません。
私には2つの違和感がありました。
- 母のファンだった男が、母のことを名前ではなく「お母さん」と呼んでいること
- ファンだった男が「お母さん」と呼ぶことに、主人公がどう思っているかの説明がないこと
また、主人公の感情が常に一定のように見えます。
- ファンだった男からもらった紙袋に800万円入っていたこと
- 母が死んだこと
このような出来事があれば感情が動いておかしくありません。
限界だった尿意を我慢しながら、看護師の死亡確認を聞き
母親の死に際に対して、他人事過ぎる気がします。
淡々としているのが悪いわけではありませんが、理由がほしかったです。
夏に色々と失い過ぎたせいか
とありますが、主人公の失った色々が何かはわかりません。
タイトルの「ギフテッド」は、生まれつきの才能があることや、すぐれた知能をもつことです。
ギフテッドについて、主人公よりは主人公の母に当てはまる気がします。
- 劇団員時代の歌の才能
- 詩人としての才能