アトピーに苦しむ主人公
象の皮膚とは、主人公の皮膚のことです。
硬くごわごわした象の皮膚は私の皮膚に似ている
主人公の女性は、小さい頃からアトピーに苦しんでいます。
同級生にいじめられ、家族からも汚いものを見る目で見られています。
社会人になった主人公は、仙台市の書店で契約社員をしています。
以前は、別の書店に就職していたのですが、夏に半袖の制服を着なければならなかったため、辞めました。
主人公は、契約社員を自動販売機に例えます。
機械にとなって本を並べて代金を受け取って釣り銭を返す。非正規の人というのは正規にあらざる人間であり、私は正式な人間ではない人間だ。感情を持ってはいけない人間だ。
主人公は、度重なるクレームに、感情的になることなく、淡々と対応します。
学校や家庭では居場所がなかった主人公ですが、契約社員として働く書店では、頼りにされています。
そんな中、東日本大震災が起きます。
店の営業はできなくなり、一人暮らしの主人公は、一度実家に帰ります。
すると、仕事から帰った父に、
なんだ、おまえもいたのか
と言われます。大地震後、開口一番にそれはないだろうと、私は思いました。
さらに、
おめえは、ただ飯を食いにきたようなもんだな
とまで言われます。
こんなことを言う家族、いるのでしょうか。
他にも、主人公が、
独り言のように「給料が安くてやっていけない」とこぼすと、母は「あんたに愚痴を言う資格はない」と叱った。
読んでいて、主人公にそこまで嫌われる要素があるとは思えませんでした。
三人称の小説なので、一人称の小説で見られる「信頼できない語り手」ではないと思います。
- 皮膚のアトピー
- 結婚しない
- 就職しない
で、こんなに嫌われるものなのでしょうか。
読んでて悲しくなりました。
家族側から主人公を見る視点がないので、なぜそこまで主人公に冷たく当たるのか、わかりません。なので、家族がただの嫌な奴にしか見えませんでした。
家族の言動にある背景が描かれていれば、また変わったのかもしれません。
救いは、書店の同僚の3つ下の女性です。プライベートで遊ぶ、主人公にとって唯一の友人と言える存在です。
主人公には、ゲームアプリで造られた恋人がいますが、同僚たちには隠していました。
同僚である友人と声優のイベントに行った帰り、友人は、
アプリゲームの恋人よりはいいぞ
と主人公に言います。
ゲームアプリのことを隠していたはずなのに、友人は、
へへへと笑い、みんな知ってる
と言います。
同僚たちは、主人公の恋人が、ゲームアプリで造られた存在だと知っていたのです。知っていても、同僚たちは主人公に言えなかったのでしょう。
同僚たちが言えなかったことを、友人は笑いながら言います。そこにいやらしさはなく、主人公のためを思って心から発している言葉だと、私は感じました。
主人公は、震災後ゲームアプリが使えなかったとき、
毎日メッセージを見るのがあれほど楽しみだったのに、使えないと知ると、実に取るに足らないものと思えた。
とあることから、アプリゲームをどこか辞めたがっていたのかもしれません。友人の言葉は主人公の後押しになるでしょう。
この同僚であり友人である女性との関係を、もっと読みたかったです。
震災後に再開した店のイベントの混雑でクレームを受ける主人公と、声優イベントでグッズの少なさにクレームを入れる主人公の対比という、あからさまなものではなくて。
調べた言葉
- 精彩:いきいきと元気なさま
- しめやかに:しんみりと落ち着いているさま
- 慄然:恐ろしさに震えおののくさま
- 申し開き:自分の正当性を明らかにするために、事情や理由を説明すること