いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『象の皮膚』佐藤厚志(著)の感想【アトピーに苦しむ主人公】(三島賞候補)

アトピーに苦しむ主人公

象の皮膚とは、主人公の皮膚のことです。

硬くごわごわした象の皮膚は私の皮膚に似ている

主人公の女性は、小さい頃からアトピーに苦しんでいます。

同級生にいじめられ、家族からも汚いものを見る目で見られています。

社会人になった主人公は、仙台市の書店で契約社員をしています。

以前は、別の書店に就職していたのですが、夏に半袖の制服を着なければならなかったため、辞めました

主人公は、契約社員を自動販売機に例えます

機械にとなって本を並べて代金を受け取って釣り銭を返す。非正規の人というのは正規にあらざる人間であり、私は正式な人間ではない人間だ。感情を持ってはいけない人間だ。

主人公は、度重なるクレームに、感情的になることなく、淡々と対応します。

学校や家庭では居場所がなかった主人公ですが、契約社員として働く書店では、頼りにされています

そんな中、東日本大震災が起きます

店の営業はできなくなり、一人暮らしの主人公は、一度実家に帰ります。

すると、仕事から帰った父に、

なんだ、おまえもいたのか

と言われます。大地震後、開口一番にそれはないだろうと、私は思いました。

さらに、

おめえは、ただ飯を食いにきたようなもんだな

とまで言われます。

こんなことを言う家族、いるのでしょうか。

他にも、主人公が、

独り言のように「給料が安くてやっていけない」とこぼすと、母は「あんたに愚痴を言う資格はない」と叱った

読んでいて、主人公にそこまで嫌われる要素があるとは思えませんでした。

三人称の小説なので、一人称の小説で見られる「信頼できない語り手」ではないと思います。

  • 皮膚のアトピー
  • 結婚しない
  • 就職しない

で、こんなに嫌われるものなのでしょうか。

読んでて悲しくなりました。

家族側から主人公を見る視点がないので、なぜそこまで主人公に冷たく当たるのか、わかりません。なので、家族がただの嫌な奴にしか見えませんでした。

家族の言動にある背景が描かれていれば、また変わったのかもしれません。

救いは、書店の同僚の3つ下の女性です。プライベートで遊ぶ、主人公にとって唯一の友人と言える存在です。

主人公には、ゲームアプリで造られた恋人がいますが、同僚たちには隠していました

同僚である友人と声優のイベントに行った帰り、友人は、

アプリゲームの恋人よりはいいぞ

と主人公に言います。

ゲームアプリのことを隠していたはずなのに、友人は、

へへへと笑い、みんな知ってる

と言います。

同僚たちは、主人公の恋人が、ゲームアプリで造られた存在だと知っていたのです。知っていても、同僚たちは主人公に言えなかったのでしょう。

同僚たちが言えなかったことを、友人は笑いながら言いますそこにいやらしさはなく、主人公のためを思って心から発している言葉だと、私は感じました。

主人公は、震災後ゲームアプリが使えなかったとき、

毎日メッセージを見るのがあれほど楽しみだったのに、使えないと知ると、実に取るに足らないものと思えた

とあることから、アプリゲームをどこか辞めたがっていたのかもしれません。友人の言葉は主人公の後押しになるでしょう

この同僚であり友人である女性との関係を、もっと読みたかったです。

震災後に再開した店のイベントの混雑でクレームを受ける主人公と、声優イベントでグッズの少なさにクレームを入れる主人公の対比という、あからさまなものではなくて。

象の皮膚

 調べた言葉

  • 精彩:いきいきと元気なさま
  • しめやかに:しんみりと落ち着いているさま
  • 慄然:恐ろしさに震えおののくさま
  • 申し開き:自分の正当性を明らかにするために、事情や理由を説明すること