いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『コンビニ人間』村田沙耶香(著)の感想【「○○人間」と言えるもの】(芥川賞受賞)

「○○人間」と言えるもの

タイトルにあるとおり、主人公は「コンビニ人間」です。

  • 18歳から18年間、コンビニでバイトし、
  • コンビニの商品を飲み食いし、
  • コンビニの勤務に備えて体調を万全にします

コンビニ中心に生活する人間。当然、無遅刻無欠勤です。

主人公は18年のバイト経験から、コンビニに今何が必要で何をすべきかを、瞬時に理解し、判断できます。雇う店側としたら、これほど頼もしい人材はいません。

ですが、

いつまでも就職をしないで、執拗といっていいほど同じ店でアルバイトをし続ける私に、家族はだんだんと不安になったよう

で、主人公は、

なぜコンビニエンスストアでないといけないのか、普通の就職先ではだめなのか、私にもわからなかった

コンビニバイトとしては申し分ないのですが、実生活では、就職や結婚をせず、恋愛経験もありません

周りの人間は放っておきません。就職も結婚もせずバイトを続ける主人公に、理由を求めます

皆、変なのものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。

主人公は、バイトを続けている理由を答えられないので、体が弱いということにしています。

そんなとき、主人公と同じように、就職も結婚もしていない35歳の男と一緒に住むことになります。その男は、コンビニのバイトをクビになった元同僚です。

主人公にも男にも互いに恋愛感情はなく、利害関係によって成立した同棲です。

  • 主人公:周りから余計な心配をされなくなる
  • 男:住む場所、食うものが与えられる

男と一緒に住んだことで、主人公の周りの人たちは、ひと安心します。

読みやすく、ユーモアがあり、声に出して笑える部分もあります。常識について考えさせられる部分もあります。

疑問に思ったのは、

  • 主人公はなぜ、コンビニの社員にならなかったのか
  • 家族や同居の男はなぜ、コンビニの社員になるよう主人公を説得しなかったのか

という点です。

就職しろ、結婚しろと、言葉でいうのは簡単です。ですが誰もが言いっぱなしで、主人公を実際にサポートする者はいません。

就職、結婚、子育てというレールに、疑問の余地なく乗っている方が、マニュアル化された人生を送っている、と言うこともできます。

主人公は、マニュアル化されたコンビニの仕事をしながら、その中で自分が何をすべきかを考え、実行しています。

主人公は、コンビニバイトを続ける理由を説明できずに働いていたのですが、一度コンビニを辞め、外からコンビニを見たことで、自分にはコンビニが必要だったと発見できました

これほどまで自分の信念を貫ける人間はいるでしょうか。主人公でいう「コンビニ人間」のように、自分は「○○人間」と言えるものがあるでしょうか

私は、主人公のコンビニほど、信念を貫けるものはありませんでした。信念を貫く主人公の姿勢には、学ぶべきものを感じました

一方で、主人公がコンビニのバイトに戻ったら、家族や同居の男としては、生活の不安がつきまといます。

だから今度は、社員として、コンビニ全体を見渡せる人間になるよう、説得してはいかがでしょうか。余計なお世話だとは思いますが。

コンビニ人間 (文春文庫)

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