いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『僕はうつ病くん』大谷朝子(著)の感想【うつ病課長と専業主夫】

うつ病課長と専業主夫

主人公は39歳の女性で、会社の課長職に就いてます

30代で課長職に就任したのは、社内初でした。

主人公は夫と2人暮らしで、夫は専業主夫です

夫は結婚前、アパレルでバイトをしていました。

主人公と同棲したのち、バイトを辞めました。

同棲しながら資格試験の勉強をしていたら、彼に難病が発覚しました。

『僕はうつ病くん』というタイトルなので、うつ病に罹患してるのは、男性だと思ってました。

うつ病なのは主人公です。

「うつ病くん」は、主人公のもとに訪れる謎の存在です。

うつ病くんは小学校三年生くらいの背の高さで、洋服は纏っておらず、ドロドロと波打つゼリー状の暗い身体を剥き出しにしている身体のてっぺんにちょこんと二つ乗っかった丸い目玉らしき球体

うつ病くんは、主人公に言います。

旦那に働かせればいいじゃないですか

(中略)医者は働けるって言ってたでしょ

うちもうお金ないですよ。誰かさんが働かないから

夫は難病とはいえ、医者から働けると言われているなら、主人公の代わりに少しは働けばいいのに、と私は思ってしまいます。

高校からの友人は、主人公の夫(当時は彼氏)について、主人公に言います。

ちゃんとした会社に就職して、こんなに一生懸命働いて、その積み重ねをさあ、あいつはすすって生きてるって訳でしょもうさあ、本人が、ほんとおれゴミ虫ですみません、みたいな感じでいてくれるならまだいいけど、ぜんぜん人間みたいな顔して生きてるのもムカつく

夫は、主人公に食わせてもらってる感じは出ていません。陽気です。

  • 体調の悪い主人公の傍ら、料理に凝ったりスイーツを作ったりする
  • 主人公の貴重な休息日を、自分の調子が良いからと、外出に連れ出す
  • 主人公のクレジットカードで、勝手に洋服を買う

一読者として、読んでいる最中、「夫よ働け」と思っていました。

なにいきいきしてんだよ、とすら感じていました。

主人公は、夫に別れを切り出します。

彼が部屋にいるとうっとうしい。(中略)こんなわたしに付き合わせるのはかわいそうだ

夫は言います。

うつだよね?

(中略)話してくれるまで待とうと思ってた病院にも行ってるみたいだったし

夫は、主人公の状態を知ってました。

主人公はうつ病を否定します。

ただ怠けてるだけこれが本性なんだ

(中略)どうしてみんなわたしを病気にしたがるの

病院の先生も、会社の上司も、夫も、主人公を病気だと言います。

夫は言います。

病気ってことは、治るってことだろ

難病を持っている夫の言葉だから、余計響きます。

うつは治るよ

私は、うつ病を、どこか甘えだと思ってた気がします。

課長に出世はしたものの、仕事がうまくできないことから生じる、逃げのような選択肢としてのうつ病。そんなことないのに。

そして私は、夫を、主人公の気持ちを読めない分からず屋だと思ってました。

夫は、主人公の状態を知っていた上で明るく振る舞っていたとしたら。

積極的に休日の外出を促していたとしたら。

夫は、主人公の闘病記を漫画にしていました。

ポニーテールの女性と、タコさんウインナーを黒く塗りつぶしたようなキャラクターがいた

(中略)女性と黒いタコさんウインナーの上に大きく、「僕はうつ病くん」と書かれていた

「うつ病くん」が言っていた、

  • 旦那に働かせればいいじゃないですか
  • 医者は働けるって言ってたでしょ
  • うちもうお金ないですよ。誰かさんが働かないから

が、夫自ら書いたと考えると、ただの能天気な人間だとは思えません。

読みやすいし、先が気になるし、うつや難病を題材にしながら、暗いだけでなく、明るさもあって、読んで良かった作品でした。

一言だけ。「僕はうつ病くん」というタイトルにするなら、「うつ病くん」と主人公が対話する箇所は、漫画が良かったです。小説だから無理かもしれませんが。