いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『くるまの娘』宇佐見りん(著)の感想②【装丁の女性に顔がない理由】(野間文芸新人賞候補)

装丁の女性に顔がない理由

感想①はこちらです。

装丁はこちら。

  • 背後に、メリーゴーランド
  • 手前に、制服を着た女性

メリーゴーランドは、作中、家族で訪れる遊園地にあります

制服を着た女性は、女子高生の主人公でしょう

メリーゴーランドの前に主人公が立っているのに、なぜ顔がないのでしょうか

これは、主人公の母が見た光景だと思いました。

メリーゴーランドに固執した母の視点では、メリーゴーランドが全面に出ており、主人公の顔が見えなくなっています。

主人公は、母がなぜ、メリーゴーランドに固執しているか知っています。

居間にかざってある写真には、母が撮った、メリーゴーランドに乗る子どもたちと夫との写真があった同じ構図の写真を撮りたいと母はずっと言っていた。この遊園地には、それを楽しみに来たといってもよいのだった。

メリーゴーランドが休止していると知った母は、泣き崩れます。

母は子どものように、人目をはばからず泣き叫びます。

本書のキャッチコピーになっている、

あの人たちは私の、親であり子どもなのだ

は、まさにそのとおりです。

母は、遊園地の従業員に詰め寄り、メリーゴーランドをどうにかして動かせないのかと頼み込みます。

無理だとわかると、メリーゴーランドの前で、家族で写真だけ撮らせてもらうよう叫びます。

母は、周りが見えなくなっていますメリーゴーランドしか見えなくなっています主人公の顔も見えません

母に引っ張られた主人公は、メリーゴーランドに飛び乗ります

主人公は家族を呼びますが、父は立ち尽くし、兄は力のない目で見ています弟は、その場からいなくなっています

「ピース!」母が言った

(中略)馬から片手を離し、二本の指を立てた笑顔をつくる身体が熱かった数多の視線に晒されていた兄が、弟が、離れていく

精神的におかしくなった母の味方は、主人公しかいません。

父も、兄も、弟も、母から離れていきます

父や兄や弟の反応は、いたって普通です。

休止中のメリーゴーランドを動かせだの、写真撮らせろだの、そんな母に付き合い切れないでしょう。

しかし、主人公は肩入れします。

一度は、帰ろうと言いだしかけた主人公が、メリーゴーランドの前でピースをします

装丁では、主人公のピースは描かれていません。

ピースをしている画でも良いと思いましたが、それだと、凛とした立ち姿が崩れるでしょう。

ピースがないことで、その場所に立つ覚悟が表れています。

「母は私の、親であり子どもなのだ。」と声が聞こえてくるようです。

母の目には、主人公の顔は映っていません。子どもが夢中になったとき、親の顔は見えません。

くるまの娘

くるまの娘

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