誰のことか
描かれるのは、私の体験したことのない世界です。
しかしこの世界には、既視感があります。
- 同じ著者の前作『ジャクソンひとり』
- 千葉雅也さんの作品
と似ていると思いました。
物語が似ているというわけではありません。
- 黒人と日本人のハーフ
- ゲイまたはバイセクシャル
- ハッテン場
という構造(部分)です。
構造(部分)だけで似ていると言うのは、良くないかもしれません。
舞台は東京の都心。雑居ビルの地下にある店です。
男たちはその通路を回遊しながら男を探し、惹かれあった男たちが板で仕切られた簡素な個室で、セックスをする。
主人公は、血まみれになった人間(=いぶき)を発見します。
横たわっていたいぶきは、26歳。
身長188センチ。体重は80キロ前後。
(中略)アフリカ系アメリカ人と日本人の両親に生まれ、自作のポルノビデオを売って生活していた。
主人公は、いぶきの知り合いでした。
いぶきの身体には文字が刻まれていました。
脇腹から腰の付け根まで一行で刻まれたその文字は、一画ずつ定規で引いたみたいに整って、やけに読みやすかった。
いぶきに刻まれた文字は、読者に説明されません。隠されています。
いぶきの肌の色をべつのものに擬えたその言葉も、もしもいぶきであれば即座に言いかえすことができるような、子供じみた侮辱だった。
何の言葉が刻まれたのか気になりますが、後半までわかりません。
なぜ、後半まで引っ張るのか、真意がわかりませんでした。
刻まれた言葉について、主人公がトラウマを持っていて言葉に出せなかったとは思えません。
作者が読者に対して、言葉を隠すという策略を取ってると思いました。
ミステリでない作品において、言葉を隠すという策略は、読者である私にはストレスでした。
後半、隠された言葉が明らかになったとき、隠しておく必要があったのか、疑問でした。
さて、「迷彩色の男」とは誰のことだろう、と思いました。
いぶきが血まみれで倒れていたという事件の数日後、店は営業再開します。
営業再開した店で、主人公が出会った男が「迷彩色の男」なのだと思います。
迷彩色の男が私にみせたパターンは四種類あった。
とありますので、「迷彩色の男」を特定できます。
四種類のパターンとは何でしょうか。
- 恋人
- 仲間
- 単一な男
は、直後に書かれてるのでわかります。
四種類目は何だろう。
いぶきの事件から、すでに季節が変わっていた。
迷彩色の男が四種目の新しいパターンをあらわした。
迷彩色の男は、名前が与えられておらず、「彼」として書かれています。
迷彩色の男(彼)は、花見客で混み合ってる列で、
<押せ>と指をさしてそそのかした。
と、仲間にタックルさせます。
四種目のパターンは、「教唆」「怒り」「衝動」「犯人」あたりでしょうか。
明確には書かれていなかったと思うので推測です。
「迷彩色の男」は、「彼」だけでなく、主人公にも当てはまると思いました。
主人公がいぶきに初めて会ったとき、
私もまた、単一な日本人ではないのだとあらためて意識した。
私にもブラックが流れている。
(中略)自分にも周囲にも暗示を重ねることで手にした、イエローに迷彩しているような錯覚をふわりと剥ぎとられた。
主人公は、イエロー(黄色人種=日本人)に迷彩しているような錯覚があったわけです。
主人公は、会社の上司から「ノンプレイヤーキャラクター」と言われます。
人間がプレイしていない、自動で動いているキャラクター
会社の同僚からも「ノンプレイヤーキャラクター」の特性の持ち主として認識されます。
会社外では、その認識は持たれてないでしょう。
いぶきも、迷彩色をまとっています。
自作のポルノビデオで見せた姿と、都心の雑居ビルで見せた姿は違います。
迷彩色を帯びるのは、「迷彩色の男」だけではありません。
私もそうだし、あなたもそうかもしれません。
そして迷彩色を帯びるのは、犯罪でない限り、悪いことではないと思います。