胸糞悪い『コンビニ人間』
『コンビニ人間』からユーモアを引いて、胸糞悪さを足したような小説です。
狭い職場の表面的な人間関係の裏にある感情を、さらけ出しています。
登場人物の誰一人にも魅力を感じませんでした。
- 支店長:「飯はみんなで食ったほうがうまい」と主張し、同僚たちを昼食に連れ出す
- 副支店長:同僚女性のペットボトルに口をつけ、勝手に飲む
- 女性社員①:体調が悪いと帰りがちなのに、手作りお菓子を差し入れる
- 主人公(男性):同僚女性の手作りお菓子を職場のゴミ箱に捨てる
- 女性社員②:女性社員①を「いじわるしませんか」と主人公に持ち掛ける
こんな職場で働きたくありません。学校のような職場です。
女性社員①は週末、主人公の家でご飯を作る関係になります。
一方、職場の飲み会では、女性社員①が、奥さんに出て行かれた副支店長をふわっと抱きしめます。副支店長が慰めてほしいと言ったことが発端ですが、飲み会の場で堂々と抱きしめる彼女もどうかしています。
女性社員①は体調を崩しがちです。職場の繁忙期でも、体調が悪いことを理由に早めに仕事を切り上げます。
彼女が早く帰った分の仕事を他の社員が補い、彼女は早く帰ってできた時間でお菓子を作り、職場に差し入れます。
「お菓子作らなくていいから自分の仕事をやってくれ」と誰もが思うでしょう。
ですが、誰も彼女に指摘できません。支店長や副支店長に気に入られているからでしょう。
女性社員①は人事異動の対象になっていますが、支店長や副支店長が異動にストップをかけています。
彼女は弱さを見せることで、強い者に守ってもらっています。
常に誰かに頼って生きてきたのでしょう。ある意味強かです。
できないと言うことで、できない自分をさらけ出すことで、人から助けてもらえる、女性社員①の特権です。
ただ、人に助けられる特権はいつまでも続かないはずです。支店長や副支店長が甘やかしてくれるのは、彼女の若さや可愛らしさによるものでしょう。
では、主人公はなぜ、女性社員①と付き合い続けるのでしょうか。
主人公は、手作り料理にこだわりはありません。むしろ、彼女から栄養を取るように言われることにいら立っています。
ちゃんとした飯を食え、自分の体を大切にしろって、言う、それがおれにとっては攻撃だって、どうしたら伝わるんだろう。
主人公が女性社員①のことを好きなようには見えません。好きなら、もらった手作りお菓子をつぶして捨てないでしょう。
タイトルの「おいしいごはんが食べられますように」は、女性社員①から主人公への言葉に受け取れます。
ですが、主人公は「おいしいごはんを食べられる」ことを望んでいるように見えません。
主人公は、女性社員②と話している方が饒舌でいきいきしているように見えます。
なのに、なぜ、女性社員①を選ぶのでしょうか。
大学を選んだ十代のあの時、おれは好きなことより、うまくやれそうな人生を選んだんだなと、おおげさだけど何度も思い返してしまう。
大学と同じで、うまくやれそうな人生を選ぶためかもしれません。
自己主張少なめでにこにこしてて優しい感じの人
であれば、人生をうまくやれそうだと主人公は思っているからでしょう。