いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『世界の終わりの終わり』佐藤友哉(著)の感想②【まじめに働いていても愚民】

まじめに働いていても愚民

感想①はこちらです。

主人公は、売れない作家です。

二年ほどかけて六作の長編小説を書いたが、どれも出版部数がふるわず、講談社から出版することができなくなった

講談社という出版社名まで出ています。

講談社は、著者がデビューした出版社です

本書は角川書店から出版されています。

佐藤さんの私小説に近い作品として読みました。

東京へ行く

復讐小説を書く

終わった夢を取り戻す。

主人公は、北海道でのアルバイト生活から脱出し、東京で一人暮らしを始めます

「終わった夢」とあるとおり、主人公は小説家になる夢を叶えました。

しかし、叶えた夢は長続きしませんでした。

小説の依頼がなくなったことで、小説家は終わった夢になりました。

主人公は、淡々と働いている作業員たちを見て、

絶対にお前たちのようにはならないぞと、僕は口の中でつぶやいた。お前たちは愚民なのだ、まじめに働いていても愚民なのだ、僕がそう決めたのだ、僕はこれから東京に行くんだぞ、お前たちのようにならないために東京に行くんだぞ、うらやましいだろう?

うらやましいと思いました。

私は社会人としてまじめに働いているつもりでしたが、愚民でした。

作業員はなくてはいけない仕事ですし、誰かがやらなければいけない仕事です。

それでも主人公の言うとおり、愚民だと思いました。

誰かがやらねばいけない仕事を、どうして自分がやらねばいけないのか。

生活のため、お金のためでしょう。

それは愚民の考えだと思いました。私は愚民です。

東京へ行った主人公は、終わった夢を取り戻せたのでしょうか。

東京にやられた

人生にやられた

すべて終わった

主人公は小説を書けないどころか、金がなくなり、酒浸りになります。

東京に行っただけで、夢を取り戻すのは無謀でした。

やりたいことをやって失敗するのは勝者だ

本当の敗者は、やりたいことすらわからないまま死に行く

主人公は勝者なのでしょうか。

  1. 若くして小説家になる夢を叶えた
  2. 出した本が売れず、出版社から小説の依頼がなくなる
  3. 東京で奮起するも、小説を書けない

果たして勝者でしょうか。

このままだと敗者でしょう。

一方、「やりたいことすらわからないまま死に行く」人は敗者なのでしょうか。

死ぬ直前、「あれもやりたかった、これもやりたかった」と後悔ばかり出てくるのであれば、敗者でしょう。

ですが、後悔すらなく、何もわからないまま死ぬのであれば、敗者とは言えません。むしろ勝者です。

作家になったばかりに。

どうして夢が叶ってしまったんだ?

どうして夢を叶えてしまったんだ?

それは味方か?

それとも敵?

夢なんかなければ。例えば、作業員の仕事を淡々としていれば。

夢を感じさせず、淡々と働く同僚を見ると、すごいと思ってしまいます。

あらゆることを乗り越えて今に至ったのかと、想像してしまいます。

そんな同僚も、かつては夢を持っていたのでしょうか。

どこかで夢を諦めたのでしょうか。

私は夢を持っているのでしょうか。

夢なんか持たず、まじめに働いていれば、生活はできます。

淡々と働くことは、すごいことのはずなのに、なぜか尊敬できません。

主人公の言う「まじめに働いていても愚民なのだ」が響きます。