いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『街と、その不確かな壁』村上春樹(著)の感想【新作『街とその不確かな壁』を読む前に】

新作『街とその不確かな壁』を読む前に

2023年4月13日発売の新作を前に、『街と、その不確かな壁』を再読しました。

タイトルがあまりにも似ています。

違いは「、」があるかないかだけ。

新作『街とその不確かな壁』のあらすじを抜粋すると、

その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす

封印された物語とは、『街と、その不確かな壁』のことでしょう。

1980年9月号の「文學界」に掲載されたきり、単行本や全集にも収録されていません。

新潮社の著者メッセージでは、

まるで<夢読み>が図書館で<古い夢>を読むみたいに

とあります。

旧作『街と、その不確かな壁』にも、

  • 古い夢
  • 夢読み
  • 図書館

が出てきます。

物語の要素は、2つの作品で似ています。

旧作において、

  • 街:主人公が訪れる場所、壁で囲われている
  • 古い夢:図書館にある人々の夢
  • 夢読み:主人公が古い夢を読むこと
  • 図書館:古い夢が存在する場所

主人公は、「君」に会うため、壁に囲われた街に入ります。

街に入るには、「影」を切り離す必要があります。

主人公は門番に「影」を切り離してもらい、街に入ります。

街の中にいる人たちには、「影」がありません。

図書館で働いている「君」にも、「影」がありませんでした。

「影」とは一体何でしょうか。

街の門番は言います。

影ってのはつまりは弱くて暗い心なんだ

街の人たちも、以前は影を持っていましたが、影を失ったとき、職も失ったそうです。

街に残ったものは失うべきもののない人間や、常に失いつづけてきた人間や、失うことを怖れぬ人間だけだった

街にいるのは、死んだように生きる人たちばかりです。壁のように無機質な人間たち……。

主人公は、「君」に別れを告げ、自分の影を連れて街から出ます。

僕は僕の暗い夢を、それがどんなに暗いものであっても、あそこに置き去りにして生きるわけには行かないんだ

「暗い夢」=影です。

旧作『街と、その不確かな壁』は中編(163枚)に対し、新作は長編(1200枚)です。

村上さんは、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でも、「壁」と「街」を物語に取り入れています。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の主人公は、壁に囲まれている街に残りました。

新作のラストは、「君」に別れを告げるのではなく、街に残るのでもなく、「君」と一緒に街から出るのではないかと、思いました。

  • 『街と、その不確かな壁』:「君」に別れを告げ、街の外に出る
  • 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』:街に残る
  • 新作『街とその不確かな壁』:「君」を連れて街の外に出る

明日が楽しみです。