新作『街とその不確かな壁』を読む前に
2023年4月13日発売の新作を前に、『街と、その不確かな壁』を再読しました。
タイトルがあまりにも似ています。
違いは「、」があるかないかだけ。
新作『街とその不確かな壁』のあらすじを抜粋すると、
その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。
封印された物語とは、『街と、その不確かな壁』のことでしょう。
1980年9月号の「文學界」に掲載されたきり、単行本や全集にも収録されていません。
新潮社の著者メッセージでは、
まるで<夢読み>が図書館で<古い夢>を読むみたいに
とあります。
旧作『街と、その不確かな壁』にも、
- 街
- 古い夢
- 夢読み
- 図書館
が出てきます。
物語の要素は、2つの作品で似ています。
旧作において、
- 街:主人公が訪れる場所、壁で囲われている
- 古い夢:図書館にある人々の夢
- 夢読み:主人公が古い夢を読むこと
- 図書館:古い夢が存在する場所
主人公は、「君」に会うため、壁に囲われた街に入ります。
街に入るには、「影」を切り離す必要があります。
主人公は門番に「影」を切り離してもらい、街に入ります。
街の中にいる人たちには、「影」がありません。
図書館で働いている「君」にも、「影」がありませんでした。
「影」とは一体何でしょうか。
街の門番は言います。
影ってのはつまりは弱くて暗い心なんだ
街の人たちも、以前は影を持っていましたが、影を失ったとき、職も失ったそうです。
街に残ったものは失うべきもののない人間や、常に失いつづけてきた人間や、失うことを怖れぬ人間だけだった
街にいるのは、死んだように生きる人たちばかりです。壁のように無機質な人間たち……。
主人公は、「君」に別れを告げ、自分の影を連れて街から出ます。
僕は僕の暗い夢を、それがどんなに暗いものであっても、あそこに置き去りにして生きるわけには行かないんだ。
「暗い夢」=影です。
旧作『街と、その不確かな壁』は中編(163枚)に対し、新作は長編(1200枚)です。
村上さんは、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でも、「壁」と「街」を物語に取り入れています。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の主人公は、壁に囲まれている街に残りました。
新作のラストは、「君」に別れを告げるのではなく、街に残るのでもなく、「君」と一緒に街から出るのではないかと、思いました。
- 『街と、その不確かな壁』:「君」に別れを告げ、街の外に出る
- 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』:街に残る
- 新作『街とその不確かな壁』:「君」を連れて街の外に出る
明日が楽しみです。