いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

小説

『ジャクソンひとり』安堂ホセ(著)の感想【敵と見なす勇気】(文藝賞受賞、芥川賞候補)

敵と見なす勇気 ジャクソンは、アフリカのどこかの国と日本のハーフで、ゲイです。 日本で言うところの、マイノリティの中のマイノリティ。 ジャクソンに似ている人間が、他に3人集まります。 4人が集まった場所で、4人の心情も描かれるので、これは誰の心情…

『最高の任務』乗代雄介(著)の感想【最高の任務とは何か】(芥川賞候補)

最高の任務とは何か 前回読んだときの感想(2019年12月)はこちらです。 そのときも、最高の任務とは何だろうと、思っていた気がします。 しかしそこには触れずに、書きやすそうなところを選んで感想を書いています。 最近は、わからないことはわからないと…

『未熟な同感者』乗代雄介(著)の感想【完全な同感者にはなれない】

完全な同感者にはなれない 前回読んだとき(2021年4月)の感想はこちらです。 本を再読したら、前回に書いた感想を読みます。 『十七八より』のときもそうでしたが、再読して感想が変わってます。 初読時の感想が残ってればいいと思ってましたが、再読時に感…

『窓』古川真人(著)の感想【視覚障害者の兄と二人暮らし】

視覚障害者の兄と二人暮らし 主人公は、大学を中退した後、兄と一緒に住んでいます。 兄は目が見えないので、主人公が手助けしています。 兄弟の生計は、兄が立てています。 兄は仕事をし、主人公は家事をします。 兄は出勤前に、窓を開ける習慣があります。…

『十七八より』乗代雄介(著)の感想【あの少女と呼ぶ理由】(群像新人賞受賞)

あの少女と呼ぶ理由 読むのは3回目です。 2021年2月に感想を書いてます。 今回読み返して、読み間違いが見つかりました。 前回の感想では、 回想形式の作品ですが、現在の主人公は、物語に登場しません。 と書いています。 しかし、現在の主人公は、書き手と…

『列』中村文則(著)の感想②【整理券に書かれたもの】

整理券に書かれたもの 感想①はこちらです。 主人公は列に並んでいます。 何の列か、いつから並んでるかはわかりません。 並んでる理由もわからないのに、列を抜けることはしません。 主人公は、後ろの人から伝言を受けます。 後方からの噂ですが、どうやら私…

『列』中村文則(著)の感想①【列とは何か】

列とは何か 主人公は何かの列に並んでいます。 その列は長く、いつまでも動かなかった。 先が見えず、最後尾も見えなかった。 主人公は何のために列に並んでいるか、わかりません。 いつからか、列に並んでいます。 列に並んでいる前後の人たちと、会話はあ…

『がらんどう』大谷朝子(著)の感想【選評を読んで】(すばる文学賞受賞)

選評を読んで アラフォーの女性2人が、ルームシェアをします。 主人公は38歳で、経理の仕事をしています。 同居人は、仕事で知り合った女性です。 仲良くなったきっかけは、推しの男性アイドルグループが同じだったことです。 主人公と同居人が推すメンバー…

『ジューンドロップ』夢野寧子(著)の感想【選評を読んで】(群像新人賞受賞)

選評を読んで 主人公は女子高生で、 母は不妊症 父は母の再婚相手 物語でありそうな家族ものです。 選考委員の柴崎由香さんは、 全般に、語り手や中心となる人物が狭い範囲から出ることがなく、小説の深層で揺らぎが起きにくかったのではないか。 「全般に」…

『もぬけの考察』村雲菜月(著)の感想【選評を読んで】(群像新人賞受賞)

選評を読んで 舞台は、都会の賃貸マンションの一室です。 一人暮らし用の部屋で、入居者が頻繁に入れ替わります。 その部屋に住む人たちの生活が描かれます。 文章は読みやすく、最後まで一気に読めました。 「もぬけの考察」は、本作の一つの章のタイトルで…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想②【殺すために孕もうとする障害者】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

殺すために孕もうとする障害者 芥川賞を受賞したので再読しました。 前回読んだときの感想はこちらです。 主人公は、嫌っています。 例えば、ものに対して。 博物館や図書館や、保存された歴史的建造物が、私は嫌いだ。完成された姿でそこにずっとある古いも…

『犬馬と鎌ヶ谷大仏』乗代雄介(著)の感想【犬の散歩を最優先する青年】

犬の散歩を最優先する青年 タイトルの「犬馬」とは、「犬馬の労」からきていると思いました。 意味は、「主君のために、力を尽くすこと」 力を尽くすのは、主人公 主君は、主人公の飼っている犬(名前はペル) 主人公は、フリーターの25歳です。 大学生のと…

『エレクトリック』千葉雅也(著)の感想②【ないはずのものがある】(三島賞候補、芥川賞候補)

ないはずのものがある 感想①はこちらです。 主人公の父は、独立して広告代理店を営んでいます。 メインの仕事は、地元のスーパーマーケットの折り込みチラシの作成です。 父の経営は、そのスーパーに依存しています。 スーパーマーケットから契約を打ち切ら…

『我が手の太陽』石田夏穂(著)の感想②【検査員の存在は何か】(芥川賞候補)

検査員の存在は何か 感想①はこちらです。 主人公は工事現場の溶接工です。 予定より早く来た検査員が、主人公の溶接が「不合格(フェール)」だったと知らせます。 検査員は加えて、これまでの主人公の溶接で、ギリギリの判定もあったと言います。 長く続け…

『我が手の太陽』石田夏穂(著)の感想①【工事現場の人のプライド】(芥川賞候補)

工事現場の人のプライド 主人公は、工事現場の溶接工です。 約20年働いてきて、自分の仕事に自信を持っています。 自他ともに認める、技術の持ち主です。 しかし、主人公の溶接が、検査で引っかかり、溶接をやり直すことになります。 なぜ欠陥が出たのか、自…

『それは誠』乗代雄介(著)の感想②【溺れてる人がいたらどうするか】(芥川賞候補)

溺れてる人がいたらどうするか 感想①はこちらです。 比喩的に、主人公は溺れています。 修学旅行の自由行動の1日で、叔父に会いに行くわけですから。 班を離れ、単独行動を希望する主人公。 毎日薬の服用が必要で、吃音持ちの「松」は、主人公への同行を希望…

『それは誠』乗代雄介(著)の感想①【著者の最高傑作】(芥川賞候補)

著者の最高傑作 掲載されている文學界の表紙に、 4人の若者のかけがえのない生の輝きをとらえた、著者の最高傑作! と書かれています。 出版社側が最高傑作と謳った作品で、最高傑作だった試しがあるでしょうか。 ですが、心配無用です。 乗代さんの小説はほ…

『##NAME##』児玉雨子(著)の感想【交換可能な名前】(芥川賞候補)

交換可能な名前 主人公のジュニアアイドル時代と、アイドルを引退した後の大学生時代を描きます。 帯には、 私の過去は、”現代の闇”なのか? でもそれは、あまりにまぶしい闇だった。 「現代の闇」とは、どういうことでしょうか。 セックスを強要されたりヌ…

『ハンチバック』市川沙央(著)の感想①【選評を読んで】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

選評を読んで ハプニングバーの潜入記事から始まります。 いきなり性的な表現からか……。 読み始めの印象はそうでした。 しかし、それは入院している人間が執筆している架空の記事だとわかります。 体験ではなく、創作か。 小説自体、創作なのですが、体験を…

『息』小池水音(著)の感想【息を止めたら】(三島賞候補)

息を止めたら タイトル「息」が、何を示すのか、考えました。 デビュー3作目のタイトルにしては、シンプルすぎると感じました。 タイトルだけで読もうとは、思えません。ストロングスタイルです。 私は、三島賞の候補になったから、読んでみようと思いました…

『エレクトリック』千葉雅也(著)の感想①【同性愛の目覚め】(三島賞候補、芥川賞候補)

同性愛の目覚め 主人公は、宇都宮に住む高校2年生です。 時代は1995年。 1978年生まれの著者自身の年代と合っています。 「エレクトリック」とは、 電気の、電気で動く、電動の(weblioより) という意味があります。 本作で言うと、 アンプ(主人公の父が製…

『浮遊』遠野遥(著)の感想【悪霊から逃げるゲーム】

悪霊から逃げるゲーム 主人公は女子高生です。 主人公は、父親と同じ歳くらいの男性のマンションで、暮らしています。 同居の男性の名は、「碧」(あお)。 年配の男性にしては、珍しい名前です。 主人公は、「碧くん」と呼びます。 なぜ、主人公が碧と暮ら…

『まっとうな人生』絲山秋子(著)の感想【『逃亡くそたわけ』の続編】

『逃亡くそたわけ』の続編 本書は、著者の小説『逃亡くそたわけ』の続編です。 『逃亡くそたわけ』は、主人公の女子大生が、入院中の病院から抜け出し、博多から鹿児島へ、車で逃亡する話です。 詳しい感想はこちらです。 『まっとうな人生』は、『逃亡くそ…

『逃亡くそたわけ』絲山秋子(著)の感想【精神病院からの脱走劇】

精神病院からの脱走劇 21歳女子大生の主人公は、入院中の精神病院から脱走します。 主人公と一緒に脱走するのは、名古屋出身のなごやん24歳。 なごやんも患者です。 21歳女性と24歳男性の、逃亡劇。 なごやんの車で、博多から大分、熊本、宮崎、鹿児島と走り…

『教育』遠野遥(著)の感想【小説はなんでもあり】(野間文芸新人賞候補)

小説はなんでもあり 小説はなんでもありと、思わせてくれる作品でした。 主人公は、全寮制の学校の学生です。 この学校では、一日三回以上オーガズムに達すると成績が上がりやすいとされていて、学校側から生徒にポルノ・ビデオが供給される。 どんな学校? …

『街とその不確かな壁』村上春樹(著)の感想③【子易さんという魅力的な人物】

子易さんという魅力的な人物 感想①はこちらです。 感想②はこちらです。 本作で魅力的な人物といえば、 子易(こやす)さんを挙げる人が多いと思います。 私も同感です。 子易さんは、主人公が館長として就任した図書館の、元館長です。 主人公を支えてくれる…

『街とその不確かな壁』村上春樹(著)の感想②【きみはどこへ行った】

きみはどこへ行った 感想①はこちらです。 主人公は高校生のとき、「きみ」に出会いました。 その後、「きみ」と連絡がつかなくなります。 主人公は「きみ」のことを忘れられませんが、どうすることもできません。 十年以上経ったある日、主人公は、別の世界…

『街とその不確かな壁』村上春樹(著)の感想①【40年越しの仕事の背景】

40年越しの仕事の背景 『街と、その不確かな壁』を前作 『街とその不確かな壁』を新作 とします。 今回は、新作の巻末「あとがき」についての感想です。 ネタバレは最小限です。 前作の感想はこちらです。 新作を読む前に、前作を読んだときの感想はこちらで…

『街と、その不確かな壁』村上春樹(著)の感想【新作『街とその不確かな壁』を読む前に】

新作『街とその不確かな壁』を読む前に 2023年4月13日発売の新作を前に、『街と、その不確かな壁』を再読しました。 タイトルがあまりにも似ています。 違いは「、」があるかないかだけ。 新作『街とその不確かな壁』のあらすじを抜粋すると、 その街に行か…

『破局』遠野遥(著)の感想【再読して面白い】(芥川賞受賞)

再読して面白い 読むのは、3回目か、4回目です。 3回以上読む小説は、ほとんどありません。 遠野さんの作品では、『破局』以外にも、『改良』を4回読んでいます。 どうしてそんなに読むのでしょうか。 たぶん、面白いからです。 たぶんとつけましたが、面白…