いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『転の声』尾崎世界観(著)の感想②【無観客ライブ】(芥川賞候補)

無観客ライブ

感想①はこちらです。

転売の仕掛人(カリスマ転売ヤー)は、無観客ライブを企画します。

  • 客を入れない
  • ボーカルはステージに立たない、歌わない
  • 配信もしない
  • チケットは売る

私にはわかりません。

配信なしで客を入れないのに、チケットを売るってどういうことでしょう。

ファンはそれでも買うのでしょうか。

見返りのないクラウドファンディング的な感じなのか。

もしくはバンドが無観客ライブを成立させたという事実が報酬なのか。

転売の仕掛人は、取材で言います。

ライブさえ行かなければ、観客はアーティストと対等でいられるというのを浮き彫りにしたちゃんとチケットを買って自分の席があるのに、あえてライブに行かないというその意思は、これまでライブに行ってアーティストから感動を与えられる一方だった彼らが、ようやく手に入れた一つの表現なんです

観客はアーティストと対等でいたいのでしょうか。

チケットを買ってライブに行かないという意思が、観客の一つの表現と言えるのでしょうか。

私なら、お金を払うのだからライブで感動を味わいたいです。

あえてライブに行かないという意思は、私には想像できません。

一人だけライブに行かないのなら、ただの空席です。

大きな空席にするには、ボイコットのように共同しないと、実現できないでしょう。

海外の有名アーティストが無観客ライブをした結果、彼女に大きな影響を与えたそうです。

そのアーティストのファンたちは、

客席にいない自分たちの方こそが何かとんでもないものを(中略)観せているのだと、無観客ライブを受け入れていったそうだ

無観客でいたファンが、アーティストにとんでもないものを観せたと考えるのは、傲慢な気がします。

アーティストは、「無観客でいてくれてありがとう」と、ファンに感謝するのでしょうか。

ファンではなく、無観客ライブを運営したスタッフに、感謝するのではないでしょうか。

無観客ライブについて、私はわかりませんでした。

前半の転売部分は面白かっただけに、後半の無観客ライブの部分は残念でした。

前半を読んでたときは、これは傑作だと思いました。

バンドボーカルである主人公が、転売でプレミアを高めていくことを期待しました。

声の調子が悪くなっても、歌の技術ではなく、売り方の技術でプレミアをつけていくのだと思いました。

  • ボーカルの声の波形に合わせて価格が変動
  • 楽曲の一部をNFTとして販売

これらが転売の最先端だったのかもしれませんが、一瞬で勢いが途絶えたように見えました。

現状維持が精一杯のバンドのボーカルと、カリスマ転売ヤーが結託し、音楽業界の頂点に上ろうとする貪欲さを求めてました。

主人公がカリスマ転売ヤーに、

俺を転売してくれませんか

と懇願したように。

無観客ライブが水を差してる感じがしました。

カリスマ転売ヤーが炎上して、主人公と音信不通になってしまうのも残念です。

一時的に消息がわからなかったとしても、いずれ見つかるでしょう。

そのときは、主人公とコンタクトもできるはずです。

時代を風靡したカリスマ転売ヤーの末路まで、読みたかったです。

消息を絶って終わりではなく、例えば情けない姿でも、さらけ出してほしかったです。

転の声

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