自意識過剰な地下アイドル
地下アイドル、SNS、裏アカウントなどを素材に、一気に突っ走る文章です。
キモいオタは最悪。でもキモいオタから「顔かわいい料」をもらって生きているわたしはもっと最悪のイマジナリー便所。
安いファミレスで、女子高生がぐわーっと一方的に話しているような感じです。
時代を切り取ったようなサブカルの言葉と、場面展開の切り替えの早さは、読み手を置いてきぼりにさせます。
その暴走ぶりが、過剰な自意識と入り混じって、最後まで読ませます。
以下に興味がある人におすすめです。
- 地下アイドル
- 暴力
- サブカル
- 自意識過剰
一言あらすじ
自称可愛さが売りの26歳の地下アイドルが、行きつけのバーを放火して、メンバーの一人と温泉地へ逃げる。
主要人物
- クドゥ・モニ:地下アイドルをしている26歳。ゴアゴアガールズのピンク。
- 星島ミグ:ゴアゴアガールズの水色。
ライブのカオスさ
ゴアゴアガールズのメンバーの名前は、オリジナリティあふれます。
- モニ
- ミグ
- ウォー・アイ・ニー
- アーバン・マイ
ネーミングからただならぬグループだという印象を与えます。
実際、ライブはカオスです。
わたしは手に持ったパイプ椅子を何百人分のGを受けて歪んだ顔をした最前列の客の頭にぶつけた。(中略)星島ミグの手のひらから飛沫が散ったように見えた。ガラス瓶を割ったのだ。
「可愛い女の子が暴力的な方がウケる」という理由で、モニとミグは暴力担当です。
他にも、ファンの女性が乳を揉まれて舌を出して喘いでいたり、客席に飛び込んだモニが胸を鷲掴みにされパンツ丸出しにされたりと、グループとファンの一体感が異様さを浮き彫りにします。
なぜ放火したか
モニは、知り合いしかいない行きつけのバーで、灯油を入れたワイングラスを投げ入れます。そしてメンバーの一人、ミグだけを連れて逃げます。
どうして放火したのでしょう。
まるでライブの一幕のような出来事です。
現実(放火)と非現実(ライブ)の一体化。
自意識過剰な一人語りのわりに、放火の意図は語られません。
逃げた先での続編を期待
選評で川上未映子さんが言います。
今作における小説の本領は、もう引き返せなくなってからのふたりの行方であるはずなのに、逃亡してからの丸投げと息切れはどうしたことか。(選評より)
モニとミグは温泉地に逃げます。ですが、そこには一瞬の安堵感しかないでしょう。逃げ切れたとは思っていないはずです。
- やったことにどう向き合うか
- 逃げ場がなくなった二人がどう生きるか
自称顔だけが売りだった地下アイドルが、どのような報いを受けて、どのように復活するか、続編を期待します。
調べた言葉
- あつらえる:オーダーメイドで作る
- アムネスティインターナショナル:人権を守る国際救援機構
- ミューズ:ギリシア神話で知的活動をつかさどる女神
- 醸す:雰囲気や状態を生み出す
- 不埒:法や道徳にはずれていて、けしからぬこと
- 無骨:洗練されていないこと
- サジェスト:示唆、暗示
- サルベージ:海難救助
- 断末魔:死ぬ間際
文學界新人賞受賞のもう一作品、田村広済『レンファント』の感想はこちらです。