肉離れをして高校最後の大会に出られなかった
高校3年生の春に肉離れをしたので、最後の大会には出られませんでした。
県大会予選の400mリレーでのことです。
コーナーの中盤で、左太ももの裏から拳が飛び出るような感覚がありました。
バチッという音が太ももから鳴り、足に力が入らなくなりました。
肉離れをしたことよりも、バトンを渡せなかった申し訳なさに涙があふれ出ました。
「どんまい」
部員の声が、涙の流れを一層激しくしました。
翌日、ギプスをして部室へ行くと、昨日の負けを感じさせない笑顔で、部員が駆けつけてくれました。
部員の走りを見るのが辛い
走れなくなった私は、部員のサポートをしようと思いました。
主に、声出しやグランド整備です。
しかし、「ラスト一本」と張ったはずの声が震えていました。
部員の走りを見ているのが辛いことに気づきました。
眩しすぎました。
私は部活に行かなくなりました。
部員は誰一人、私を責めませんでした。
白い天井には何もない
部活に出ない分、家で過ごす時間が長くなりました。
家族は誰も、それを指摘しません。
私は部屋にこもって、天井を見上げていました。
治りが早くなるわけでもないのに、左足をほぐしながら、手がかりを探すように、何もない白い天井を見ていました。
何が見つかるわけでもないのに何かを探していました。
図書館へ行く
もう一度部活へ行くか、学校で時間をつぶすか、迷いました。
部員の走りを想像すると、胸が痛くなりました。
学校で時間をつぶすとしたら、選択肢は2つです。
- 自習室
- 図書館
勉強する気がなかった私は、図書館へ行ってみることにしました。
引き戸を開ける音が大きく鳴りました。
「ギプスなんて珍しいねえ」と女性の低い声が続きました。
西日に照らされた50代くらいのおばさんが、目を細めていました。
何を読んだらいいですか?
緑色のエプロンをかけた50代くらいのおばさんは、司書さんでした。
話しかけられたことをいいことに、「何を読んだらいいですか?」と聞きました。
本をほとんど読んだことがなくても面白く読めると、東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』を勧めてくれました。
それを借りて帰り、ベッドではなく机に向かいました。
陸上部では知り得なかった物語の世界が広がっていました。夢中でページをめくりました。
翌日、授業が終わった後、急いで図書館へ行きました。
司書さんの笑顔に、「東野圭吾で他におすすめある?」と言いながらカウンターに向かいました。
しばらく経ってから、部室に顔を出しました。
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