いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

【迷いと決断】本を読むようになったきっかけ

肉離れをして高校最後の大会に出られなかった

 高校3年生の春に肉離れをしたので、最後の大会には出られませんでした。

 県大会予選の400mリレーでのことです。

 コーナーの中盤で、左太ももの裏から拳が飛び出るような感覚がありました。

 バチッという音が太ももから鳴り、足に力が入らなくなりました。

 肉離れをしたことよりも、バトンを渡せなかった申し訳なさに涙があふれ出ました。

 「どんまい」

 部員の声が、涙の流れを一層激しくしました。

 翌日、ギプスをして部室へ行くと、昨日の負けを感じさせない笑顔で、部員が駆けつけてくれました。

 

部員の走りを見るのが辛い

 走れなくなった私は、部員のサポートをしようと思いました。

 主に、声出しやグランド整備です。

 しかし、「ラスト一本」と張ったはずの声が震えていました。

 部員の走りを見ているのが辛いことに気づきました。

 眩しすぎました。

 私は部活に行かなくなりました。

 部員は誰一人、私を責めませんでした。

 

白い天井には何もない

 部活に出ない分、家で過ごす時間が長くなりました。

 家族は誰も、それを指摘しません。

 私は部屋にこもって、天井を見上げていました。

 治りが早くなるわけでもないのに、左足をほぐしながら、手がかりを探すように、何もない白い天井を見ていました。

 何が見つかるわけでもないのに何かを探していました。

 

図書館へ行く

 もう一度部活へ行くか、学校で時間をつぶすか、迷いました。

 部員の走りを想像すると、胸が痛くなりました。

 学校で時間をつぶすとしたら、選択肢は2つです。

  1. 自習室
  2. 図書館

 勉強する気がなかった私は、図書館へ行ってみることにしました。

 引き戸を開ける音が大きく鳴りました。

 「ギプスなんて珍しいねえ」と女性の低い声が続きました。

 西日に照らされた50代くらいのおばさんが、目を細めていました。

 

何を読んだらいいですか?

 緑色のエプロンをかけた50代くらいのおばさんは、司書さんでした。

 話しかけられたことをいいことに、「何を読んだらいいですか?」と聞きました。

 本をほとんど読んだことがなくても面白く読めると、東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』を勧めてくれました。

 それを借りて帰り、ベッドではなく机に向かいました。

 陸上部では知り得なかった物語の世界が広がっていました。夢中でページをめくりました。

 翌日、授業が終わった後、急いで図書館へ行きました。

 司書さんの笑顔に、「東野圭吾で他におすすめある?」と言いながらカウンターに向かいました。

 しばらく経ってから、部室に顔を出しました。