いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『しずけさ』町屋良平(著)の感想【引きこもりの青年と小学生が夜を越えてゆく】

なんとなく辞める

 前作『ショパンゾンビ・コンテスタント』は、なんとなくピアノを辞めた大学生が主人公で、本作はなんとなく仕事を辞めた青年が主人公です。

 共通点は、なんとなく。

 挫折感や絶望を味わった末の決断ではなく、なんとなしの憂鬱と不眠で辞めてしまいます

前職を退職した要因はただのゆううつでしかなく、勤務先はブラック企業でもなければハラスメントをふくむ深刻な人間関係の不和もない。ただなんとなしのゆううつと不眠でかれは仕事を止めてしまった。(p.114) 

  退職した後は、実家でなんとなく生きています。生きる気力はなさそうです。

 そんな青年が真夜中に小学生と出会います。

 その小学生は夜の間、家から出るように言われていました。

 以下に興味がある人におすすめです。

一言あらすじ

 なんとなしの不眠とゆううつで仕事を辞めた主人公が、真夜中に散歩をしていると、小学生から声を掛けられる。その小学生は深夜2時から6時までは家にいるなと言われていた。25歳の青年と小学生が、夜を越えてゆく。

 

主要人物

  • 棟方くん:仕事を辞め、実家で暮らしている青年
  • いつきくん:深夜2時から6時までは家を出るよう、親から言われている小学生

 

青年と小学生の対等な関係

 25歳の棟方くんと小学生のいつきくんは、最初から対等な関係です。

 小学生らしき人物を見つけた棟方くんが、知らずに遠ざかろうとしますが、いつきくんから声を掛けられます。

 できるだけ足音をひびかせないよう去るつもりだったが、「おい」と追いかけるこえがする。

「おまえ」

なにやってんだ、と男児はいった。(p.114)

  いつきくんは棟方くんに敬語を使うことなく、友達のように接します。棟方くんもそれを咎めません。

 年齢が違う二人の対等な関係性ゆえに、二人がどうなるのか気がかりです。

 

人生のハードルを上げすぎない

いつの間にか人生のハードルをそんなにあげてしまったのか、忘れてしまっていた。

ふつうに生きるだなんて

むりだった。すぐに家にかえって布団にはいった。(p.135)

 普通に生きるって何でしょう

 就職して、結婚して、子どもを育て社会人にさせて。

 それって、普通なのでしょうか。

 普通ができていない人は、だめなのでしょうか

 人生のハードルを下げることは、生きるのがしんどくなったときに大切だと思いました。

  • エントリーシートに自分の名前と住所を書いた
  • 婚活サイトを眺めた

 自分に過度な期待をして苦しむよりは、その日できた少しのことを褒めた方が、生きるのが楽になりそうです

文學界2019年5月号

文學界2019年5月号

 

 

調べた言葉

暮れなずむ:日が暮れそうで、なかなか暮れないでいる

ありてい:有り体、ありのまま

まがうかたない:間違えることのない

みはるかす:はるかに見渡す

泰平:世の中が平和に治まっていること

穏当:穏やかで無理のないこと