才能がないとわかったときにどう生きるか
芥川賞の『1R1分34秒』は、ボクシングの話で、本作はピアニストの話です。
前作同様、主人公には才能がありません。今作は、愛もありません。
一方、主人公の友人には才能も愛もあります。
自分にないものを持っています。
ですが、嫉妬に狂ったり嫌がらせをしたりという話ではありません。
ピアノの才能がないと諦めた主人公が、次にどう生きるかが書かれています。
以下に興味がある人におすすめです。
- 才能がない
- 愛がない
- 大学生もの
- 三角関係
- 独特の文体、表現
一言あらすじ
音大を辞めたぼくは、バイトをしながら小説を書いている。バイト先に気になる子がいるが、友人の彼女。友人はピアノの才能があるし、彼女から愛されている。
主要人物
- ぼく:音大をやめ、ファミレスでバイトをしながら小説を書いている
- 源元(げんげん):ピアノの才能もあり、恋人からも愛されている
- 潮里:源元の彼女
独特の文体
ぼくが源元に、
「お前のこと、かいていい?」
あたらしい小説に、とたずねると、かれは「いいよ」べつに 、と応えた。(p.8)
この作品の一文目です。特徴は2点あります。
- 「かいていい」「たずねる」「べつに」など、あえてひらがなであること
- 「」の後にもセリフが続いていること
1つ目の特徴は、言葉に柔らかみや言動に未熟さを与えます。
2つ目の特徴は、読みにくいですが、ちょっとした面白みがあります。 感覚的には「」の後のセリフは付け足しのようですが、そんなこともなさそうで、作者の意図はわかりませんでした。
才能も愛もないぼく
才能のない、愛のないぼくは、まだ孤独すらしりません。(p.59)
ぼくは、源元よりも潮里を幸せにできる自負があります。
ぼくからの好意を、潮里は拒否しないので、まんざらではないのかと思いきや、やはり源元のことが好きなんだと思う出来事があります。
そのときのやるせなさ。
彼氏彼女の関係に入る余地のない壁。
ぼくは遠くから見ることしかできません。
次のチャレンジ
自分の得意なことを、もっとうまくできる人が現れたとき、どうしますか。
ぼくは半年で音大をやめた。(中略)べつに源元の才能に敗北を感じてやめたわけじゃない。なんとなくとしかいえない。なんとなく人生を懸けていたピアノを、なんとなく止めた。(p.10)
なんとなくとはいうものの、人生を懸けたとあるので、才能に限界を感じたのでしょう。音大には源元のような人がごろごろいる。才能もない自分が続けていても仕方がない、と。
ぼくは、その後小説を書き始めます。別のことをし始めるのです。
見切りをつけ、次のチャレンジをすることが、救いになります。
調べた言葉
嗜虐:残虐なことを好むこと
眉唾:だまされないように用心すること
慧眼:鋭い洞察力をもつこと
すてばち:自信や希望をなくして、やけになること
底意:心の底にある考え
殊勝:けなげで感心なこと