熱海のリゾートマンションに隠居する小説家
主人公は、熱海のリゾートマンションで一人暮らししている小説家です。年齢は書かれていませんが、30代か40代だと思われます。
主人公は、働かなくとも暮らしていける資産を持っています。そのためか、仕事への活力は失われています。
仕事への意欲はありませんが、性欲は強いです。
週に一度東京から訪れる恋人だけでは飽き足らず、同じマンションに滞在することになった同業者の妻に手を出します。その同業者の妻は、主人公の8年前の元恋人でした。
元恋人について、主人公は、
今も魅力的なのは都合がよくなかった。色あせていてもらいたかった。
主人公と元恋人は、所かまわず体を重ねます。すると、元恋人の夫である同業者に、食事に誘われました。
同業者は、主人公に、
あんたのことぶん殴ろうと思ってたんですよ
と言います。ばれていたのでしょう。主人公は内心、
殴られるのが嫌だった。痛みも嫌だが、殴られたあとどういう態度をとるのが正解なのか判らないのが嫌だった。
主人公は、小説を書かず半ば隠居のような状態です。そんな主人公の、どこに魅力があるのか、私にはわかりませんでした。恋人や元恋人に好意を抱かれているのが不思議です。主人公に都合が良すぎる気がしました。
恋人は、小説を書かない主人公に、才能がもったいないと言います。主人公は、才能は消えたと自覚しています。
飢えや乾きも感じなかった。もともとなかったのかもしれない。
主人公は、愛について考えています。例えば、恋人との性行為について、
愛が何か知らないが、こうしているときだけは信じられるような気がした。
この肉体の快楽。これは本物だった。演技の入り込む余地のない、この快楽は美しい。虚飾も、不純物もない、裸の感覚。
ならば、これを愛と呼んでいいのかもしれない。
小説に対する飢えや乾きは感じていませんが、性欲に対する飢えや乾きは、強く感じているようです。
同じマンションに住んでいる老婆から、
愛は肉のものではない
と言われます。
主人公は、この老婆が、幽霊ではないかと考えます。
この作品には、活かされていない要素が多いと感じました。例えば、
- マンションに出る幽霊
- 美しい肌の老人
- 作品の時代が2025年
です。
昼夜を問わずこのマンションには幽霊がでる
という記載から、主人公も幽霊なのかと思いましたが、そうではありませんでした。幽霊のように小説への気力を失っているだけでした。
美しい肌の老人が幽霊かと思えば、作品に関わることはほとんどなく、フェードアウトしてしまいます。
2025年の高齢化が進んだ熱海を描きたかったのだとしたら、現在でも十分に高齢化されているので、2025年にする必要性を感じませんでした。
主人公の思い通りにいかないラストは良いのですが、何もかもを失った主人公がどうなるのかを描いてほしかったです。投げっぱなしで終わっています。
恋人に振られ、自殺もできず、これから一人、熱海のリゾートマンションでどう生きるのか。あるいは東京に戻るのか。小説を書くのか書かないのか。書くならどんな小説を書くのか。そのあたりを読みたかったです。