いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『レンファント』田村広済(著)の感想【生まれた子が重い皮膚病だったら】(文學界新人賞受賞)

子どもを可愛がれない

育児休暇を取った男性が、子の重い皮膚病と、妻との関係に悩みます。

妻は、子どもを可愛がっていました。

しかし、子が皮膚病とわかり、強い薬を塗っても治らない現状を見て、可愛がらなくなりました。妻の言葉です。

あんなに苦しんだのに。あんなに痛かったのに。それでこれかよ。こんなぼろぼろの子供かよ。 

一時的な感情の爆発とはいえ、生まれた子に重い皮膚病があったら、親の心情はこうなってしまうのでしょうか。

以下に興味がある人におすすめです。

一言あらすじ

育休を取った男性が、重い息子の皮膚病と、働く妻との関係に悩む。 

主要人物

  • 弘明:育休を取った男性。妻より稼ぎが少ないため育休を取った
  • 正子:弘明の妻。弘明より収入があるため育休を取らず働く
  • 翔太:弘明と正子の子。重い皮膚病を患う
  • 女医:弘明が20軒以上回って行きついた診療所に勤める医師

子どもが重い皮膚病だったら

嫌でも考えるのは、もし自分の子が重い皮膚病だったら、ということです。

女医は言います。

このままでは、たぶんこの子は一生、薬から逃げられない。肌はぼろぼろになっていくし、体は本来持っている治癒力を失っていく。この子にとって、ステロイドはドラッグといっしょなのよ。

(中略)

薬をやめて、この子が本来持っている治癒力に任せること。そのためには、まずあなたが薬をやめる勇気を持たないと

女医は薬をやめるよう言いながら、最強の薬「レンファント」を弘明に渡します。

レンファントで治らなかったら、もうどうすることもできません。

治療を続けるか、子供の治癒力に任せて塗り薬をやめるか、判断を迫られます。 

スマホを買い替えたいと言えない

弘明は、ひび割れで見にくいスマホを使っています。スマホは3世代前のものです。

正子への経済的な依存がこれほど引け目になると分かっていれば、休職をもっとためらったはずだ。

画面が割れてるし、買いたいスマホがあるのに、妻への経済的依存からそれを言い出せません

育休を取得すると、妻にこうも気を使わなければならないのか、それも息子の皮膚病のせいなのか、弘明はぐっとこらえます。

弘明は、息子がいつまでも目を覚まさなければとさえ思ってしまいます。 

偽善や期待はない

  • 自分の子だから可愛がらないと
  • 皮膚病はいつか治るはず

そんな偽善や期待はありません

淡々とその日を生きるしかない。

弘明も正子も、いつ発狂してもおかしくありません。代わりに翔太がいつまでも泣き叫びます。

そういう人たちに救いの手を。何かないものかと考えてしまいます。

文學界2019年5月号

文學界2019年5月号

 

調べた言葉

  • 凄惨:目をそむけたくなるほど、むごたらしいこと

病気の子どもに悩む男性という点で、大江健三郎さんの『個人的な体験』を思い出しました。生まれる子が障害を持っていたらという話です。

個人的な体験 (新潮文庫)

個人的な体験 (新潮文庫)

 

文學界新人賞受賞のもう一作品、奥野紗世子『逃げ水は街の血潮』の感想はこちらです。