子どもを可愛がれない
育児休暇を取った男性が、子の重い皮膚病と、妻との関係に悩みます。
妻は、子どもを可愛がっていました。
しかし、子が皮膚病とわかり、強い薬を塗っても治らない現状を見て、可愛がらなくなりました。妻の言葉です。
あんなに苦しんだのに。あんなに痛かったのに。それでこれかよ。こんなぼろぼろの子供かよ。
一時的な感情の爆発とはいえ、生まれた子に重い皮膚病があったら、親の心情はこうなってしまうのでしょうか。
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一言あらすじ
育休を取った男性が、重い息子の皮膚病と、働く妻との関係に悩む。
主要人物
- 弘明:育休を取った男性。妻より稼ぎが少ないため育休を取った
- 正子:弘明の妻。弘明より収入があるため育休を取らず働く
- 翔太:弘明と正子の子。重い皮膚病を患う
- 女医:弘明が20軒以上回って行きついた診療所に勤める医師
子どもが重い皮膚病だったら
嫌でも考えるのは、もし自分の子が重い皮膚病だったら、ということです。
女医は言います。
このままでは、たぶんこの子は一生、薬から逃げられない。肌はぼろぼろになっていくし、体は本来持っている治癒力を失っていく。この子にとって、ステロイドはドラッグといっしょなのよ。
(中略)
薬をやめて、この子が本来持っている治癒力に任せること。そのためには、まずあなたが薬をやめる勇気を持たないと
女医は薬をやめるよう言いながら、最強の薬「レンファント」を弘明に渡します。
レンファントで治らなかったら、もうどうすることもできません。
治療を続けるか、子供の治癒力に任せて塗り薬をやめるか、判断を迫られます。
スマホを買い替えたいと言えない
弘明は、ひび割れで見にくいスマホを使っています。スマホは3世代前のものです。
正子への経済的な依存がこれほど引け目になると分かっていれば、休職をもっとためらったはずだ。
画面が割れてるし、買いたいスマホがあるのに、妻への経済的依存からそれを言い出せません。
育休を取得すると、妻にこうも気を使わなければならないのか、それも息子の皮膚病のせいなのか、弘明はぐっとこらえます。
弘明は、息子がいつまでも目を覚まさなければとさえ思ってしまいます。
偽善や期待はない
- 自分の子だから可愛がらないと
- 皮膚病はいつか治るはず
そんな偽善や期待はありません。
淡々とその日を生きるしかない。
弘明も正子も、いつ発狂してもおかしくありません。代わりに翔太がいつまでも泣き叫びます。
そういう人たちに救いの手を。何かないものかと考えてしまいます。
調べた言葉
- 凄惨:目をそむけたくなるほど、むごたらしいこと
病気の子どもに悩む男性という点で、大江健三郎さんの『個人的な体験』を思い出しました。生まれる子が障害を持っていたらという話です。
文學界新人賞受賞のもう一作品、奥野紗世子『逃げ水は街の血潮』の感想はこちらです。