いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

小説

『パパイヤ・ママイヤ』乗代雄介(著)の感想【少女の秘密基地】

少女の秘密基地 後半に進むにつれ、面白くなります。 前半は、正直退屈です。 乗代さんの作品を読んだことのない人は、序盤で脱落する可能性があります。 最後まで読むと、爽やかな気持ちになれます。 乗代さんの『旅する練習』に近い、ロードムービーのよう…

『オカンといっしょ』ツチヤタカユキ(著)の感想【自虐と皮肉が面白い】

自虐と皮肉が面白い 『笑いのカイブツ』が面白かったので、2作目の本作にも期待していました。 『笑いのカイブツ』の感想はこちらです。 『笑いのカイブツ』は、 笑いにストイックだが結果が出ない 笑いを諦めきれず、もがき苦しむ 認めてくれる友達や恋人と…

『改良』遠野遥(著)の感想【4回も読んでる】(文藝賞受賞)

4回も読んでる 私は過去3回、『改良』の感想を書いてます。 1回目は、2019年11月。 2回目は、2020年11月。 3回目は、2022年4月(読書メーターで記載)。 bookmeter.com 約1年ぶり、4回目の『改良』。 4回目の感想を書いてるということは、本書を4回読んでま…

『大江健三郎自選短篇』(初期短篇)の感想【『空の怪物アグイー』と『個人的な体験』】

空の怪物アグイー 大江さんの初期短篇の読後感は、やるせないです。 頑張っても報われない 無駄な努力 予想外の裏切り など、ため息をついてしまう終わり方の作品が多いです。(それが良さでもあります) ただ、『空の怪物アグイー』は少し違います。 主人公…

『家』高橋弘希(著)の感想【老婆を殺して良心が痛むか】

老婆を殺して良心が痛むか 29歳の主人公は、ネット掲示板で募集の仕事に応募します。 仕事内容は、老婆の家の金庫にある2000万円を盗むことでした。 主人公の取り分は、半分の1000万です。 財布に250円しか入っていない主人公には、僥倖でした。 押し入った…

『音楽が鳴りやんだら』高橋弘希(著)の感想②【記事を書く個人に価値はない】

記事を書く個人に価値はない 感想①はこちらです。 主人公のバンドをインタビューする、雑誌記者がいます。 記者は主人公のバンドのファンでもあり、仕事熱心です。 しかし、その記者は異動します。 異動先は、ゴシップを取り扱う週刊誌でした。 記者は、主人…

『世界地図、傾く』黒川卓希(著)の感想【選評を読んで】(新潮新人賞受賞)

選評を読んで 新潮新人賞には、2630作品の応募があったそうです。 本作がその頂点にふさわしいかというと、そうは思いませんでした。 何の話かよくわからなく、読み通すのが苦痛でした。 新人賞か芥川賞候補作でなければ、途中で読むのをやめています。 しか…

『日曜日の人々』高橋弘希(著)の感想【自助グループの存在意義】(野間文芸新人賞受賞)

自助グループの存在意義 「日曜日の人々」とは、自助グループの冊子です。 自助グループとは、悩みや問題を抱えた人たちが集まる場です。 冊子には、メンバーの個人的な体験が書かれています。 拒食症 窃盗癖 不眠症 など、自身の悩みや問題が書かれています…

『音楽が鳴りやんだら』高橋弘希(著)の感想①【本気で音楽をやる代償】

本気で音楽をやる代償 主人公は、音楽の才能に恵まれます。 地元の友達と組んだバンドで、レコード会社からデビューの声がかかります。 デビューの条件は、ベースのメンバーを変えること。 レコード会社の社員は言います。 本気で音楽をやりたいのなら、代償…

『荒地の家族』佐藤厚志(著)の感想【明るい未来が見えなくても】(芥川賞受賞)

明るい未来が見えなくても 「荒地」の家族。 タイトルが重いです。 帯のキャッチコピーに、 あの災厄から十年余り、男はその地を彷徨いつづけた。 とあり、読む前から気が重いです。 「荒地」とは、東日本大震災の被害を受けた土地です。 主人公は、宮城県で…

『この世の喜びよ』井戸川射子(著)の感想【二人称で書く意味】(芥川賞受賞)

二人称で書く意味 主人公は、ショッピングセンター内の喪服売り場で働く女性です。 「あなた」という二人称で書かれます。 本作の一文目は、 あなたは積まれた山の中から、片手に握っているものとちょうど同じようなのを探した。 なぜ、二人称で書かれる必要…

『グレイスレス』鈴木涼美(著)の感想【なぜAV女優にならないのか】(芥川賞候補)

なぜAV女優にならないのか 「グレイスレス」の言葉の意味がわかりませんでした。 辞書では、 品のない 見苦しい 恐れのない 不快な など、多様な意味が書かれていました。 作中に「グレイスレス」という言葉は出てきません。 主人公は、AV業界で化粧の仕事を…

『異言』グレゴリー・ケズナジャット(著)の感想【与えられた役割を演じる】

与えられた役割を演じる 異言というタイトル。聞きなれない言葉です。 辞書には、 「その人の態度や事実と、言うこととが違うこと」 とあります。 主人公は、幼少のときに行った教会で、異言を目にします。 洗礼を受けた少女が、今までの態度と別人のように…

『鴨川ランナー』グレゴリー・ケズナジャット(著)の感想【京都に帰りたい】(京都文学賞受賞)

京都に帰りたい 主人公は、英語圏で生まれ育ちました。 きみが初めて京都を訪れたのは十六歳のときだ。この時点できみはすでに二年間、日本語を学習している。 本作は、「きみ」という二人称の語りです。 主人公は、 16歳で初京都 大学卒業後、英語を教える…

『開墾地』グレゴリー・ケズナジャット(著)の感想【故郷へ帰る意味】(芥川賞候補)

故郷へ帰る意味 『開墾地』というタイトル。一見とっつきにくいです。 辞書には、「山林や原野を切り開いた土地」とあります。 「開墾地」が意味するのは、 アメリカ(サウスカロライナ州)から上京した主人公 イランからサウスカロライナに渡った主人公の父…

好きな小説家は誰ですかという難問に答えてみる

好きな小説家は誰ですか? と、いきなり聞かれることは、ありません。 聞かれるには、順序があります。 「趣味は何ですか?」から始まり(そんな会話はほとんどありませんが)、 「読書です」や「小説を読むことです」と言った場合に(私は決して言いません…

第168回芥川賞受賞作発表と、近年の受賞作で一番良かった作品

第168回芥川賞受賞作発表 2023年1月19日(木)、芥川賞の受賞作が発表されました。 ダブル受賞です。 井戸川射子『この世の喜びよ』 この世の喜びよ 作者:井戸川射子 講談社 Amazon 佐藤厚志『荒地の家族』 荒地の家族 作者:佐藤厚志 新潮社 Amazon 受賞予想…

第168回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2022年下半期)

第168回芥川賞候補作発表 2022年12月16日(金)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2023年1月19日(木)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめます。 安堂ホセ『ジャクソンひとり』文藝冬季号 初の候補入りです。 同作で文藝賞を受賞しま…

『終わった人』内館牧子(著)の感想【終わらないためにどうするか】

終わらないためにどうするか 退職したら何をするか。 主人公は63歳で定年退職しました。会社勤めが「終わった人」です。 妻は美容院で働いています。 子どもは家を出て、家庭を持っています。 主人公には、やるべきことがありません。 やることがなくなって…

『点滅するものの革命』平沢逸(著)の感想【ビートルズ「レボリューション9」】(群像新人賞受賞)

ビートルズ「レボリューション9」 主人公は、5歳か6歳。来年小学校に入学します。 父親と二人暮らしで、父親は多摩川の河川敷で銃を探しています。 探している銃は父のものではありません。拾って報奨金をもらおうとしています。 父親は毎日河川敷に通ってお…

第44回野間文芸新人賞受賞作発表(2022年)の感想

第44回野間文芸新人賞受賞作発表 2022年11月4日(金)、野間文芸新人賞の受賞作が発表されました。 受賞作は、町屋良平さんの『ほんのこども』です。 ほんのこども 作者:町屋良平 講談社 Amazon 感想はこちらです。 私の予想では、『ほんのこども』に○をつけ…

『くるまの娘』宇佐見りん(著)の感想②【装丁の女性に顔がない理由】(野間文芸新人賞候補)

装丁の女性に顔がない理由 感想①はこちらです。 装丁はこちら。 背後に、メリーゴーランド 手前に、制服を着た女性 メリーゴーランドは、作中、家族で訪れる遊園地にあります。 制服を着た女性は、女子高生の主人公でしょう。 メリーゴーランドの前に主人公…

『祝宴』温又柔(著)の感想【娘に同姓の恋人がいたら】(野間文芸新人賞候補)

娘に同姓の恋人がいたら 主人公は、67歳になった今も、会社のプロジェクトを統括するビジネスマンです。 中国 台湾 日本 を行き来します。 妻と娘2人は日本にいて、下の娘の結婚式(祝宴)に出席しました。 結婚式の夜、37歳の上の娘は言います。 かのじょの…

『くるまの娘』宇佐見りん(著)の感想①【車で生活する女子高生】(野間文芸新人賞候補)

車で生活する女子高生 『かか』(文藝賞受賞、三島賞受賞、野間文芸新人賞候補) 『推し、燃ゆ』(芥川賞受賞) に続き、著者の3作目です。 出す作品すべて、何かしらの賞にノミネートされており、相当な実力です。 初めて宇佐見さんの作品を読む方なら、文章力…

『ケチる貴方』石田夏穂(著)の感想【仕事のコツを新人に教えるか】(野間文芸新人賞候補)

仕事のコツを新人に教えるか タイトルから、「ケチな人間」を非難する作品だと思いました。 タイトルに「貴方」があるので、ケチな旦那を非難する話とか。 全く違いました。ケチなのは、主人公自身です。 備蓄用タンクの設計と施工を請け負う会社に勤める 7…

【野間文芸新人賞予想】第44回候補作発表(2022年)

野間文芸新人賞候補作発表 2022年9月27日、野間文芸新人賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2021年11月4日(金)です。 以下、候補作をまとめ、受賞予想をいたします。 『ケチる貴方』石田夏穂 初の候補です。 群像 2022年 03 月号 [雑誌] 講…

『MISSING 失われているもの』村上龍(著)の感想③【人生最大の失敗】

人生最大の失敗 感想①はこちらです。 感想②はこちらです。 村上龍さんの私小説的小説として読みました。 本書では、主人公の人生最大の失敗が語られています。 よって、村上さんの人生最大の失敗として、読めてしまいます。 わたしは独り暮らしだ。貧乏学生…

『MISSING 失われているもの』村上龍(著)の感想②【『初恋と美』とデビュー作】

『初恋と美』とデビュー作 感想①はこちらです。 本作を、村上龍さんの私小説的小説として読みました。 主人公は、中学生のとき、作文で賞を受賞します。 タイトルは『初恋と美』です(ちなみに村上さんも、同じタイトルでPTA新聞の市長賞をもらっているよう…

『MISSING 失われているもの』村上龍(著)の感想①【私小説的小説】

私小説的小説 金原ひとみさんが、 『文藝 2022年秋季号』の 「私小説的小説10」 で本書を選んでいたので、私小説に近い小説として読みました。 実際、私小説に近いと感じました。例えば、 主人公が、佐世保市出身の小説家 章のタイトルに「ブルー」があり、…

『ビニール傘』岸政彦(著)の感想【居場所を失ったら生きていけないのか】(芥川賞候補、三島賞候補)

居場所を失ったら生きていけないのか 大阪が舞台。人物の視点がころころと切り替わります。 ときにはタクシー運転手の男性、ときにはガールズバーの女性。 視点の切り替わりは、一つの場所に居続けない人間みたいです。 コンビニ店員や美容師など、サービス…