自虐と皮肉が面白い
『笑いのカイブツ』が面白かったので、2作目の本作にも期待していました。
『笑いのカイブツ』の感想はこちらです。
『笑いのカイブツ』は、
- 笑いにストイックだが結果が出ない
- 笑いを諦めきれず、もがき苦しむ
- 認めてくれる友達や恋人との交流
そうした姿を描いているのが、面白かったです。
一方、『オカンといっしょ』。
読んでいると、鼻につきます。
何がというと、
- 主人公:正しい
- 他の人:間違ってる
そんな印象を抱かせます。
オレは全部正しい、他が悪いんだ。って感じが、においます。
比喩表現は、好き嫌いがあると思うんですが、私は好みではありませんでした。
例えば料理のシーンで、
鳥のかしわは、まるでゴッホが切り落とした耳たぶのようだ。
口の中に運ぶと、昼間、空に浮かんでいた雲をちぎって食べたみたいな食感。
比喩が嘘っぽいんですよね。
鳥のかしわで耳たぶを想起させるのはよいです。
「ゴッホが切り落とした耳たぶ」まで言うと、言い過ぎな気がします。
「昼間、空に浮かんでいた雲をちぎって食べたみたいな感覚」は、合わないし、嘘が強いし、小説家っぽいことをしてる感じなんですよね。
面白かった部分はなかったのかというと、面白い箇所もあります。
死ぬのは、ドッチボールで当たって枠の外に出ていくのに似ている。そして、僕は、何回も顔面に当たって、顔面セーフでここにいるような人間だ。
主人公の自虐が面白いです。
学校のスターだったヘヴンは、肉体労働者になり、学校で一番可愛いと言われたアイスはウエイトレスになった。
学校でのヒエラルキーが、社会に出たら崩れるという皮肉に、哀愁があります。
「お前くらいやで、アホみたいに高校行ってる奴」
「えっ? ホンマに?」
「門番は新聞配達なったし、ドクターはローソンで働いとるし、マンハッタンはラーメン屋で修行しとるし、ドテチンは工場や」
狙ってはいないのでしょうが、こちらも皮肉っぽいです。
新聞配達、ローソンバイト、ラーメン屋修行、工場勤務VS高校生。どっちがアホなのでしょうか。
主人公は中学生のとき、美術部に入り、「人間と牛が交尾している」絵を描きました。
周りの部員の絵は、アニメのキャラクターばかりだったので、主人公の絵が浮いていたそうです。
女子は「キモい」と言い、男子は「頭おかしい」と言った。
そうなってから、皆がアニメの絵をそのまま描いた理由がわかったような気がした。個性的であろうとする事は、この世界では異常な事なんだ。
中学生で個性を貫くのは難しいでしょう。
賞などの客観的な評価がない限り、潰されます。
お笑いにおけるツチヤさんは、個性を貫く人だと、勝手に想像し、期待しています。
個性を貫いた先にしか、成功はないのだと思います。
諦めたら、平凡な人生。