いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『オカンといっしょ』ツチヤタカユキ(著)の感想【自虐と皮肉が面白い】

自虐と皮肉が面白い

『笑いのカイブツ』が面白かったので、2作目の本作にも期待していました。

『笑いのカイブツ』の感想はこちらです。

『笑いのカイブツ』は、

  • 笑いにストイックだが結果が出ない
  • 笑いを諦めきれず、もがき苦しむ
  • 認めてくれる友達や恋人との交流

そうした姿を描いているのが、面白かったです。

一方、『オカンといっしょ』。

読んでいると、鼻につきます。

何がというと、

  • 主人公:正しい
  • 他の人:間違ってる

そんな印象を抱かせます。

オレは全部正しい、他が悪いんだ。って感じが、においます。

比喩表現は、好き嫌いがあると思うんですが、私は好みではありませんでした。

例えば料理のシーンで、

鳥のかしわは、まるでゴッホが切り落とした耳たぶのようだ。

口の中に運ぶと、昼間、空に浮かんでいた雲をちぎって食べたみたいな食感

比喩が嘘っぽいんですよね。

鳥のかしわで耳たぶを想起させるのはよいです。

「ゴッホが切り落とした耳たぶ」まで言うと、言い過ぎな気がします。

「昼間、空に浮かんでいた雲をちぎって食べたみたいな感覚」は、合わないし、嘘が強いし、小説家っぽいことをしてる感じなんですよね。

面白かった部分はなかったのかというと、面白い箇所もあります。

死ぬのは、ドッチボールで当たって枠の外に出ていくのに似ている。そして、僕は、何回も顔面に当たって、顔面セーフでここにいるような人間だ

主人公の自虐が面白いです。

学校のスターだったヘヴンは、肉体労働者になり、学校で一番可愛いと言われたアイスはウエイトレスになった

学校でのヒエラルキーが、社会に出たら崩れるという皮肉に、哀愁があります。

「お前くらいやで、アホみたいに高校行ってる奴

「えっ? ホンマに?」

門番は新聞配達なったし、ドクターはローソンで働いとるし、マンハッタンはラーメン屋で修行しとるし、ドテチンは工場や

狙ってはいないのでしょうが、こちらも皮肉っぽいです。

新聞配達、ローソンバイト、ラーメン屋修行、工場勤務VS高校生。どっちがアホなのでしょうか。

主人公は中学生のとき、美術部に入り、「人間と牛が交尾している」絵を描きました。

周りの部員の絵は、アニメのキャラクターばかりだったので、主人公の絵が浮いていたそうです。

女子は「キモい」と言い、男子は「頭おかしい」と言った。

そうなってから、皆がアニメの絵をそのまま描いた理由がわかったような気がした。個性的であろうとする事は、この世界では異常な事なんだ

中学生で個性を貫くのは難しいでしょう。

賞などの客観的な評価がない限り、潰されます。

お笑いにおけるツチヤさんは、個性を貫く人だと、勝手に想像し、期待しています。

個性を貫いた先にしか、成功はないのだと思います。

諦めたら、平凡な人生。