仕事のコツを新人に教えるか
タイトルから、「ケチな人間」を非難する作品だと思いました。
タイトルに「貴方」があるので、ケチな旦那を非難する話とか。
全く違いました。ケチなのは、主人公自身です。
- 備蓄用タンクの設計と施工を請け負う会社に勤める
- 7年目の女性
が主人公です。新人2人の指導員を任されます。
私は、総合的にケチなのだ。財布の紐にしても、ちょっとした手伝いにしても、後進育成にしても、人を許せるか否かにしても。どの項目でも、私は百点満点のドケチ。
ケチなのは性格だけではなく。身体機能にも当てはまります。
筋肉も脂肪も豊富でありながらいつも寒がっている在り方。食べても食べても熱に変換しない在り方。半永久的に宿便するあり方。
主人公は寒がりです。
天気予報の気温は株価に近いものがあった。上がると嬉しく下がると悲しい。必要以上の頻度でチェックする。下がったところで誰を責められるでもなく、粛々と受け入れるしかない。
株価に連動させる寒がり方の表現に、ユーモアがあります。
随所にユーモアのある表現が見られ、読み手を楽しませてくれます。
また、主人公のケチさに、理解できる部分もあります。
例えば、新人への指導について。
業務遂行上のコツを、二人に教えるのを嫌がっている自分に気づいた。脳裏に浮かんだのは、七年前の自分がエクセルの指南書を開き、同じショートカットをしこしこ習得した光景だ。
自分が苦労して習得したものを、簡単に教えていいのかという苦悩。
「教えちゃえばいい」と思う一方で、誰も教えてくれずに自分でやったのだから、簡単に教えるのは惜しいという気持ちもわかります。
私ならどうするかと、考えました。
仕事のノウハウをまとめている手順書(マニュアル)を、新人の指導員になったら渡すかどうかです。
渡したらどうなるか。
- 「こんなの使えない」と判断される
- 「ありがとうございます」とマニュアルを使って成長する
- 「修正と追加しておきました」とマニュアルの改良をしてくれる
私はマニュアルを渡すだろうと思いました。
マニュアルを渡さないことで、新人に苦労をさせたいと思っている自分が嫌だからです。
主人公は、人に親切に接すると、体温が上昇することがわかりました。
体温上昇させるために、人に寛容になります。
- 関係のない仕事を手伝う
- 嫌な依頼を引き受ける
- 出さなくてもいい金を出す
今までならやらなかったことです。
ケチらずに引き受けると、主人公の体温が上がります。
来い、来いと念じていたら、三十分後に体の芯がカッと熱くなった。
冷え性の主人公が、体温上昇のコントロールができるようになっています。
「ケチる貴方」の「貴方」は主人公です。
では、「貴方」という二人称は、誰の視点からでしょうか。
- 「ケチでない状態の」主人公
- 「体温上昇に成功した」主人公
だと考えました。
体温を上昇させるなら、自前のケチもいとわない主人公。結末だけが残念でした。
体温上昇の奴隷と化し、体温上昇のためなら何でもやった結果、全く別の人間になってほしかったです。