いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『ケチる貴方』石田夏穂(著)の感想【仕事のコツを新人に教えるか】(野間文芸新人賞候補)

仕事のコツを新人に教えるか

タイトルから、「ケチな人間」を非難する作品だと思いました。

タイトルに「貴方」があるので、ケチな旦那を非難する話とか。

全く違いました。ケチなのは、主人公自身です

  • 備蓄用タンクの設計と施工を請け負う会社に勤める
  • 7年目の女性

が主人公です。新人2人の指導員を任されます

私は、総合的にケチなのだ。財布の紐にしても、ちょっとした手伝いにしても、後進育成にしても、人を許せるか否かにしてもどの項目でも、私は百点満点のドケチ

ケチなのは性格だけではなく。身体機能にも当てはまります。

筋肉も脂肪も豊富でありながらいつも寒がっている在り方食べても食べても熱に変換しない在り方半永久的に宿便するあり方

主人公は寒がりです。

天気予報の気温は株価に近いものがあった上がると嬉しく下がると悲しい必要以上の頻度でチェックする下がったところで誰を責められるでもなく、粛々と受け入れるしかない

株価に連動させる寒がり方の表現に、ユーモアがあります。

随所にユーモアのある表現が見られ、読み手を楽しませてくれます。

また、主人公のケチさに、理解できる部分もあります。

例えば、新人への指導について。

業務遂行上のコツを、二人に教えるのを嫌がっている自分に気づいた。脳裏に浮かんだのは、七年前の自分がエクセルの指南書を開き、同じショートカットをしこしこ習得した光景だ。

自分が苦労して習得したものを、簡単に教えていいのかという苦悩

「教えちゃえばいい」と思う一方で、誰も教えてくれずに自分でやったのだから、簡単に教えるのは惜しいという気持ちもわかります。

私ならどうするかと、考えました。

仕事のノウハウをまとめている手順書(マニュアル)を、新人の指導員になったら渡すかどうかです。

渡したらどうなるか。

  • 「こんなの使えない」と判断される
  • 「ありがとうございます」とマニュアルを使って成長する
  • 「修正と追加しておきました」とマニュアルの改良をしてくれる

私はマニュアルを渡すだろうと思いました。

マニュアルを渡さないことで、新人に苦労をさせたいと思っている自分が嫌だからです。

主人公は、人に親切に接すると、体温が上昇することがわかりました

体温上昇させるために、人に寛容になります。

  • 関係のない仕事を手伝う
  • 嫌な依頼を引き受ける
  • 出さなくてもいい金を出す

今までならやらなかったことです。

ケチらずに引き受けると、主人公の体温が上がります。

来い、来いと念じていたら、三十分後に体の芯がカッと熱くなった

冷え性の主人公が、体温上昇のコントロールができるようになっています。

「ケチる貴方」の「貴方」は主人公です。

では、「貴方」という二人称は、誰の視点からでしょうか

  • 「ケチでない状態の」主人公
  • 「体温上昇に成功した」主人公

だと考えました。

体温を上昇させるなら、自前のケチもいとわない主人公。結末だけが残念でした。

体温上昇の奴隷と化し、体温上昇のためなら何でもやった結果、全く別の人間になってほしかったです