いじめられたと思わない
中学2年生の主人公は、クラスメイトからいじめを受けています。
殴られるのは日常茶飯事で、
筒型の風呂で冷水や尿をかけられたり、尻の穴にモップの柄を入れられたりします。
主人公は、独自の「論理」を持ち込んで耐えます。
いじめられたと思わないことにしようと決めた。こうすればいじめられていることにはならない。いじめられていないと思うのではない。いじめられていることにはならない、という事実が大切だ。この論理は完全だ。
自分がいじめを受けていると認識しなければ、いじめにはならないという論理ですね。
攻撃を受けているときに、主人公に浮かぶ言葉があります。
「もっとやれ、もっとやれ。」だ。この言葉に導かれるように相手からの攻撃が加えられる。
「論理」を持ち出すことで、いじめはないと主張する主人公でしたが、クラスの女子生徒から「いじめ」を指摘されることで、論理が崩れそうになります。
担任教師からも、いじめを受けているのかと問われます。女子生徒が告げ口したようです。
主人公はいじめを否定するものの、告げ口した生徒へ怒りが湧きます。
主人公は、女子生徒を殺し、自分も死のうと決意します。
いじめや自意識について興味がある人におすすめです。
いじめの止め方
主人公にとってやっかいなのは、構築した論理を崩そうとする、女子生徒の存在です。
何も言わず放っておいてくれれば、いじめは存在しないという主人公の論理は崩れません。
クラスメイトの攻撃は、目立つところに痣ができないよう配慮されていますし、
冷水や尿をかけられた日には、事前にタオルを持ってくるよう、クラスメイトから言われています。
いじめは、主人公への悪意によるものではなく、娯楽によるものです。
だからといって、許されるわけではありません。
ただ、主人公はすでに独自の論理でいじめを受け入れています。
女子生徒や教員が、言葉でいじめを止めたいなら、いじめをする者にそれ以上楽しい遊びを教えることが必要です。
いじめをしている人に、「いじめはやめなさい」と言って解決するなら、とっくになくなっているでしょう。
いじめが続くのは、クラスメイトにとって楽しいからです。
やめさせるには、それ以上没頭できるものを提供しなければいけません。
解説で中村文則さんは言います。
肝心な点はこの主人公が「羊」、つまり生け贄であることだ。
生け贄が生け贄であることを受け入れたのに、余計なことして生け贄の決意をゆるがせると、ゆるがせるきっかけを作った者への悪意が生まれます。
中途半端に期待だけ持たせるのは良くないです。
止めるなら徹底的に、できないなら見て見ぬ振りしかできません。
調べた言葉
- かしずく:身近に使えて、大切に世話をする
- わななき:ふるえる
- 苦心:物事を成し遂げるために、手間をかけ、心を使うこと
表題作『図書準備室』の感想はこちらです。