いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『冷たい水の羊』田中慎弥(著)の感想【いじめられたと思わない】(新潮新人賞受賞)

いじめられたと思わない

中学2年生の主人公は、クラスメイトからいじめを受けています。

殴られるのは日常茶飯事で、

筒型の風呂で冷水や尿をかけられたり、尻の穴にモップの柄を入れられたりします。

主人公は、独自の「論理」を持ち込んで耐えます。

いじめられたと思わないことにしようと決めた。こうすればいじめられていることにはならない。いじめられていないと思うのではない。いじめられていることにはならない、という事実が大切だ。この論理は完全だ。

自分がいじめを受けていると認識しなければ、いじめにはならないという論理ですね。

攻撃を受けているときに、主人公に浮かぶ言葉があります。

もっとやれ、もっとやれ。」だ。この言葉に導かれるように相手からの攻撃が加えられる。

「論理」を持ち出すことで、いじめはないと主張する主人公でしたが、クラスの女子生徒から「いじめ」を指摘されることで、論理が崩れそうになります。

担任教師からも、いじめを受けているのかと問われます。女子生徒が告げ口したようです。

主人公はいじめを否定するものの、告げ口した生徒へ怒りが湧きます。

主人公は、女子生徒を殺し、自分も死のうと決意します。

いじめや自意識について興味がある人におすすめです。

図書準備室 (新潮文庫)

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  • 作者:田中 慎弥
  • 発売日: 2012/04/27
  • メディア: 文庫
 

いじめの止め方

主人公にとってやっかいなのは、構築した論理を崩そうとする、女子生徒の存在です。

何も言わず放っておいてくれれば、いじめは存在しないという主人公の論理は崩れません。

クラスメイトの攻撃は、目立つところに痣ができないよう配慮されていますし、

冷水や尿をかけられた日には、事前にタオルを持ってくるよう、クラスメイトから言われています。

いじめは、主人公への悪意によるものではなく、娯楽によるものです。

だからといって、許されるわけではありません。

ただ、主人公はすでに独自の論理でいじめを受け入れています。

女子生徒や教員が、言葉でいじめを止めたいなら、いじめをする者にそれ以上楽しい遊びを教えることが必要です。

いじめをしている人に、「いじめはやめなさい」と言って解決するなら、とっくになくなっているでしょう。

いじめが続くのは、クラスメイトにとって楽しいからです。

やめさせるには、それ以上没頭できるものを提供しなければいけません。

解説で中村文則さんは言います。

肝心な点はこの主人公が「羊」、つまり生け贄であることだ。

生け贄が生け贄であることを受け入れたのに、余計なことして生け贄の決意をゆるがせると、ゆるがせるきっかけを作った者への悪意が生まれます。

中途半端に期待だけ持たせるのは良くないです。

止めるなら徹底的に、できないなら見て見ぬ振りしかできません。

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  • 作者:田中 慎弥
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調べた言葉

  • かしずく:身近に使えて、大切に世話をする
  • わななき:ふるえる
  • 苦心:物事を成し遂げるために、手間をかけ、心を使うこと