かか弁という新しい方言
「かか」とは、母親です。
「かか弁」は、母親の使う独特な言葉です。
東北弁ではなく、博多弁でも関西弁でもありません。
最初は読みにくいですが、次第にこの語りに慣れます。
かかは、ととの浮気したときんことをなんども繰り返し自分のなかでなぞるうちに深い溝にしてしまい、何を考えていてもそこにたどり着くようになっていました。
かかは、浮気や離婚を何度も思い返すことで、自分の傷を広げていきます。
祖父や祖母も同居していますが、かかの話を聞いて慰めるのは、主人公だけでした。
しかし、かかが発狂するようになると、主人公は疎ましく感じるようになります。
かかが手術する間、主人公(うーちゃん)は一人で熊野へ行きます。
熊野のなかの那智には、いざなみがいると言います。うーちゃんはこの国を生んだ母であるいざなみに会いたいと思いました。
かかへの憎しみがある一方で、愛しさもあります。
ストーリー的に新しさはありません。
ですが、主人公の心境を表現する独特な語りが、新しさを感じさせます。
以下に興味がある人におすすめです。
- 母と子の物語
- 方言
- 独特の語り
一言あらすじ
母親の手術を控え、主人公は一人で熊野へお祈りに行く。かかへの憎しみと愛しさが、独特の方言で語られる。
主要人物
- うーちゃん:主人公。19歳の浪人生
- かか:うーちゃんの母。手術を控えている
- 明子:うーちゃんのいとこ
金魚をすくって見せたら、ぶたれた
湯船に金魚が浮かんでいたので、うーちゃんはすくって、いとこの明子に見せました。
すると、明子に頭を思いきりぶたれたのです。
なぜ、金魚を見せてぶたれるのだろう、と思うと、
あんとき明子が怒ったわけを、うーちゃんは後年、自分に初潮が来るときになって漸く知りました。女の股から溢れ出る血液は、ぬるこい湯にとけうつくしい金魚として幼いうーちゃんの前に姿を現したんです。
この冒頭の描写で、一気に引き込まれました。
ばちあたりは信心の裏返し
うーちゃんの語りは、ひやっとさせられます。
例えば、畳のへりを執拗に踏むことなどの、ばちあたりな行為について、
ばちあたりな行動はかみさまを信じたうえでちらちらと顔色をうかがうあかぼうの行為なんでした。そいしてばちがあたったとき、その存在にふるえながらようやく人間たちは安心することができるんです。
畳のへりを執拗に踏むのは、踏んではいけないという理解があって行われることだから、踏んでばちが当たったら安心するわけです。その理解がなければ、気にせず踏んでいるでしょう。
独特の語りでの表現に、新しさを感じます。
調べた言葉
- 妙ちきりん:奇妙なさま
- 不文律:暗黙の了解になっているきまり
- 清貧:私利を求めず行いが正しいために、生活が貧しいこと
- おもねる:機嫌をとって気に入られようとする
- 人智:人の知恵
- いつくしむ:愛情を持って大切にする
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