美しくなりたい男の凶器めいた語り
主人公の大学生は、女装をします。
一度買ったウィッグが気に入らないから買い直したり、メイクを研究したりと、ストイックです。
男が好きなのかな? と思いますが、そうではありません。
私は、美しくなりたいだけだった。男に好かれたいわけでも、女になろうとしたわけでもなかった。
主人公は、純粋に美を追求しています。
私は、女装=男が好き、と思い込んでいたことに気づきました。
女装するのは男が好きだから、男装するのは女が好きだから。そんな単純ではないと、はっとしました。
そんな主人公の語りが客観的で凶器めいていて、ぐいぐい引き込まれます。
個室に入ると便座が上がっていて、私は憤りを覚えた。(中略)勢いよく叩きつけてしまいたい気分だったが、悪いのは便座を上げたまま出ていった人間であって、便器には何の落ち度もない。(p.57)
以下に興味がある人におすすめです。
- 意識の流れ
- 客観的な語り
- 女装
- LGBT
一言あらすじ
主人公の大学生は女装をするが、男が好きなわけではない。美しくなりたいだけ。女装して外に出るタイミングを伺うも、テレアポのバイトやデリヘルを呼ぶ日常を送る。
主要人物
- 私:主人公。美を追求する20歳の大学生
勝手に解釈して安心する
主人公は小学生の頃、同級生の男の子から性的な強要を受けます。
主人公が「なんで女子と男子で水着のかたちが違うんだろう」とぼそっと言ったことで、男の子が興味を抱いたからです。
その子は言います。
お前は女だよ。オレにはわかる。男みたいに見えるけど、お前は女だ。(p.53)
勝手に解釈された主人公は、ぐいと引き寄せられます。
ですが、主人公は男が好きなわけではありません。
女装が好き=男が好き、という図式と同じです。
そう単純ではなかったのです。
単純化するのは、受け手が安心するからだと思います。
現に私も、主人公が幼い頃に男の子から性的な強要をされたことで、男が好きになった物語なんだろうと予想していました。
みごとに外れました。
改良の意味
タイトル「改良」の意味は、作中に書かれていません。
このタイトル、100か200の案を出して選んだそうです。
かなり凝られているようで、深い意味がありそうです。
改良(=欠点・短所などを改めてよりよくすること)とは何なのか。
主人公の語りで「マスクをすると男には見えないので、顔の下半分の処理に問題がある」という箇所があります。
顔の下半分をメイクで改良する(美のために改良する)と考えると、なぜ主人公はそこまで美にこだわるのだろうと思いました。
この作者の次の作品を早く読みたいです。
調べた言葉
- 改良:欠点・短所などを改めてよりよくすること
- 機先を制する:相手より先に行動して気勢をくじく