いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『エレクトリック』千葉雅也(著)の感想①【同性愛の目覚め】(三島賞候補、芥川賞候補)

同性愛の目覚め

主人公は、宇都宮に住む高校2年生です。

時代は1995年。

1978年生まれの著者自身の年代と合っています。

「エレクトリック」とは、

電気の、電気で動く、電動の(weblioより)

という意味があります。

本作で言うと、

  • アンプ(主人公の父が製作)
  • インターネット(主人公の家でつなぐ)
  • 静電気(マジック)

があります。

ですが、「エレクトリック」でそれ以上に感じたのは、「同性愛の目覚め」です。

それまで主人公は、同姓に対する関心を、どうすることもできず、わからないままでした。

主人公は、インターネットでゲイのコミュニティを発見し、宇都宮にもハッテン場があることを知ります。

主人公は、ハッテン場であるらしいトイレを訪れます。

ただのトイレでした。トイレにずっといるわけにはいきません。

見に来ていることが見られる可能性がある。トイレは見るものじゃない。使うものだ。便器をわざわざ見るんじゃ、まるでデュシャンの作品じゃないか

デュシャンとは、トイレにサインをし、トイレを作品にした作家です。

デュシャンは、他の全員を差し置いて「勝つ」方法を見つけたのだと思った

「勝つ」方法とは、常識の逆を行くことです。

主人公の父は言います。

皆が行く方向に行かないそれだけで勝てる

父は、独立して広告代理店をやっています。

サラリーマンという、大多数の行く方向ではありません。

現状、勝ててきたのでしょう。

しかし、これからも勝ち続けるかどうかは、怪しいです。

父のメインの仕事は、栃木を本拠地とするスーパーマーケットの折り込みチラシの作成です。

そのスーパーマーケット一社に依存するのは危ういのではないかと、主人公は感じています。

一方、父にどんなピンチがきても乗り越えるだろうと、主人公は父を信頼しています。

「皆が行く方向に行かない」は、主人公の同性愛にも通じます。

誰もいなかったハッテン場を立ち去った主人公は、その場所を再び訪れることになるでしょう。

もしくは、ハッテン場が多く散在している東京へ行くことになるでしょう。

千葉さんの小説の主人公は、ゲイです。

千葉さんは、ゲイ(「皆が行く方向に行かない」)を書いて、突き進んでいます。

主人公の時系列は、以下のとおりです。

  • 『エレクトリック』(高校2年生
  • 『マジックミラー』(大学生、40歳

  • 『デッドライン』(大学院生

  • 『オーバーヒート』(准教授

千葉さんは、まだはまっていないピースを埋めていくのだと思います。

『エレクトリック』で良かったのは、主人公が父に反抗する箇所です。

主人公の妹が撮ったポラロイド写真を、父は褒めた上でコメントします。

コメントは、広告ならではの視点からのアドバイスでした。

主人公は、妹の写真(なにげない日常の写真)を作品として完成していると認めます。

だからこそ、これ以上を求める父に反抗します。

写真は一瞬を切り取って残すそれだけでいい

主人公は言い切ります。

英雄と慕う父に対して、主人公が反抗します。

そこが良かったです。

感想②はこちらです。