同性愛の目覚め
主人公は、宇都宮に住む高校2年生です。
時代は1995年。
1978年生まれの著者自身の年代と合っています。
「エレクトリック」とは、
電気の、電気で動く、電動の(weblioより)
という意味があります。
本作で言うと、
- アンプ(主人公の父が製作)
- インターネット(主人公の家でつなぐ)
- 静電気(マジック)
があります。
ですが、「エレクトリック」でそれ以上に感じたのは、「同性愛の目覚め」です。
それまで主人公は、同姓に対する関心を、どうすることもできず、わからないままでした。
主人公は、インターネットでゲイのコミュニティを発見し、宇都宮にもハッテン場があることを知ります。
主人公は、ハッテン場であるらしいトイレを訪れます。
ただのトイレでした。トイレにずっといるわけにはいきません。
見に来ていることが見られる可能性がある。トイレは見るものじゃない。使うものだ。便器をわざわざ見るんじゃ、まるでデュシャンの作品じゃないか。
デュシャンとは、トイレにサインをし、トイレを作品にした作家です。
デュシャンは、他の全員を差し置いて「勝つ」方法を見つけたのだと思った。
「勝つ」方法とは、常識の逆を行くことです。
主人公の父は言います。
皆が行く方向に行かない。それだけで勝てる
父は、独立して広告代理店をやっています。
サラリーマンという、大多数の行く方向ではありません。
現状、勝ててきたのでしょう。
しかし、これからも勝ち続けるかどうかは、怪しいです。
父のメインの仕事は、栃木を本拠地とするスーパーマーケットの折り込みチラシの作成です。
そのスーパーマーケット一社に依存するのは危ういのではないかと、主人公は感じています。
一方、父にどんなピンチがきても乗り越えるだろうと、主人公は父を信頼しています。
「皆が行く方向に行かない」は、主人公の同性愛にも通じます。
誰もいなかったハッテン場を立ち去った主人公は、その場所を再び訪れることになるでしょう。
もしくは、ハッテン場が多く散在している東京へ行くことになるでしょう。
千葉さんの小説の主人公は、ゲイです。
千葉さんは、ゲイ(「皆が行く方向に行かない」)を書いて、突き進んでいます。
主人公の時系列は、以下のとおりです。
- 『エレクトリック』(高校2年生)
- 『マジックミラー』(大学生、40歳)
- 『デッドライン』(大学院生)
- 『オーバーヒート』(准教授)
千葉さんは、まだはまっていないピースを埋めていくのだと思います。
『エレクトリック』で良かったのは、主人公が父に反抗する箇所です。
主人公の妹が撮ったポラロイド写真を、父は褒めた上でコメントします。
コメントは、広告ならではの視点からのアドバイスでした。
主人公は、妹の写真(なにげない日常の写真)を作品として完成していると認めます。
だからこそ、これ以上を求める父に反抗します。
写真は一瞬を切り取って残す。それだけでいい
主人公は言い切ります。
英雄と慕う父に対して、主人公が反抗します。
そこが良かったです。
感想②はこちらです。