選評を読んで
受賞前の芥川賞の予想では、二度読みましたが、受賞はないと予想しました。
そのときの感想はこちらです。
歪な文章は、読んでいて不安になるし、
馬鹿げたような思想の垂れ流しがおかしかったからです。
例えば主人公の、
私はもともと、セックスをするのが好きだ。なぜなら、セックスをすると気持ちがいいからだ。セックスほど気持ちのいいことは知らない。セックスの機会を、私がみすみす逃したことはないだろう。
これを読んだ選考委員が、受賞に○を付けるとは思わなかったからです。
選評で山田詠美さんは、
身も蓋もない下品な表現がいくつも出て来る。けれど、少しもみすぼらしくない。この作者は、きっと、手練に見えない手練になる。
と書いています。
私は逆で、身も蓋もない下品な表現をみすぼらしく思い、作者が手練に見えなかったのです。つまり、山田さんの選評とは真逆です。
結果は、芥川賞受賞。
他の選考委員の選評でも、『破局』は高く評価されています。
私は、自分の読みの甘さを痛感しました。
と同時に、選考委員の方々の小説を読む力に圧倒され、そんな作品を書いた遠野さんに感服しました。
また、小川洋子さんの選評では、
『破局』は正しさへの執着が主人公を破綻させる点において、特異だった。彼は肉体を通じて自己と関わる時にだけ、確信を味わえる。(中略)一番の頼みであったはずの肉体に裏切られた時、一気に崩壊が訪れる。
とあります。
主人公は、自分の理屈に忠実に行動しています。
ラグビー選手の現役を退いた今でも、身体を鍛えています。
ラグビーのコーチとして高校生をしごき、練習では現役選手をタックルで打ち負かしています。
ですが、鍛えられた身体は、警察官という主人公より強い肉体によって、打ち負かされます。
さらに、自分よりも性欲の強い女性に、負かされます。
性欲で負かされ、強い肉体に打ち負かされた後、主人公は警察に捕まるでしょう。
破局を迎え、物語は終わります。
公務員試験は受かったかもしれませんが、内定は取り消しになるかもしれません。
なぜ主人公が公務員を志望しているのかは不明です。世間体の良さを理由に、消去法的に選んだような気がします。
私は、「破局」した主人公がどう変わるのか、もしくは変わらないのか、気になりました。
選評で松浦寿輝さんの言うように、
公務員になりそこねたところで、高校時代のラグビー部の先輩のつてで建設会社にでも入り、そこでけっこううまくやっていきそうではないか。
確かにそんな気がします。
主人公は、一見すると体格の良い好青年でしょうから。