選評を読んで
吉田修一さんは芥川賞の選評で、
高山さんはおそらく「孤独な場所」というものが一体どんな場所なのか、その正体を、手を替え品を替え、執拗に真剣に、暴こうとする作家
と書いています。
確かに、『首里の馬』の登場人物はみな孤独な場所にいます。
例えば、主人公は一人暮らしで、
- オンラインでクイズを出すオペレーター
- 沖縄郷土資料館での資料整理
をしています。どちらも一人で行っています。
オンラインでクイズを出す仕事は、雑居ビルの一室で行われます。同僚はいません。
クイズを出す相手も一人ずつです。彼らは「孤独な業務従事者」と呼ばれ、「宇宙」「海底」「戦場」にいる、日本語を話せる外国人です。
オンライン環境に不具合があると、主人公は電気屋の店主を呼びますが、店主も一人です。
郷土資料館には、館長がいますが、交流はありません。館長は多くの時間を、日当たりの良い場所で一人居眠りをしています。この資料館は来館者を受け入れていません。
他にも、
- 歯科医を開業した館長の娘
- オペレーターの仕事の面接官
- 主人公の家に迷い込む馬
- 馬を交番に引き渡したときの警察官
は、みな各々の場所に一人(一頭)でいます。
島田雅彦さんの選評で、
沖縄は、失われてゆく多様性と孤立のメタファー
とあり、人や動物だけでなく、沖縄という場所自体も孤独を示しているようです。
孤独は寂しいと感じてしまいがちですが、
川上弘美さんの選評で、
『首里の馬』の中にある静かな絶望と、その絶望に浸るまいという意志に、感じ入りました
とあり、当の本人たちは、孤独であっても寂しさを感じていないように見えます。
にくじゃが まよう からしの答え
選評では言及されていませんでしたが、私が気になったのは、主人公がオペレーターの仕事を辞めるときに、「孤独な業務従事者」3人に出した個人的なクイズです。
問題というような問題でもなく、正解というようなものもあるようなないようなものですけど……
と主人公は前置きし、
『にくじゃが』『まよう』『からし』
と言います。
連想されるものは何かということですが、「孤独な業務従事者」3人は、即答しません。すぐに答えられるような問題ではないということです。
作中にヒントがあります。
この世界の、あるひとつの場所をみっつの単語で紐づけて示すやり方があることを、しばらく前に知った。地球上の場所を数平米ずつに区切って文字で構成された意味のある単語を、一見意味のない羅列として割り当てるやり方は暗号にも使うことが可能だった。
(中略)
クイズの問題と称して、世界のあらゆる場所の情報を指し示すことができる。
これと同じことを、主人公が行っています。
つまり、「what3words」です。
「what3words」とは、3つの単語だけで、世界中のどんな場所でも正確な位置がわかるものです。
「what3words」で、「にくじゃが まよう からし」を検索すると、
「首里城」を示します。
なぜ、首里城なのでしょう。
私は、主人公のクイズが「what3words」だとわかったとき、示す場所は
- 郷土資料館の場所
- 馬の隠し場所
- 主人公が住んでいる場所
のどれかだと思いました。
首里城を伝える意図がわかりません。
関連するのはタイトルの『首里の馬』なので、馬の隠し場所なのかもしれません。
実際にこの場所には何があるのでしょう。
また、主人公は、
問題というような問題でもなく、正解というようなものもあるようなないようなもの
と言っていましたが、問題でもあり正解もあるのに、なぜこのような言い回しをしたのか、気になりました。