他の作品にはない
「17、8歳」の女子高生が主人公です。
主人公の回想で、
- 学校生活
- 家族と過ごす日常
- 叔母との会話
が描かれます。
回想形式の作品ですが、現在の主人公は、物語に登場しません。
私が、2年以上前に本書を読んだときの感想を、一部抜粋します。
(読書メーターの感想から抜粋)
断片的に描かれる語りは難解で繋がりも不明。風景描写が少ないので、どのような場所で行われているのか掴みづらい。しかし一気に読ませるだけの何かがある。実験的な言葉遊びのように感じるがこれが純文学というものか。
今回読んだときの感想と共通するのは、一文目です。
「断片的に描かれる語りは難解」について、作中、難しい言葉が乱立しているわけではありません。ですが、「何を言いたいのかわからない」という印象は、変わりませんでした。
- 体育教師からのセクハラ
- 国語教師と生徒の3人での読書会
- 家族4人での焼肉
- 叔母との文学めいた会話
- 病院の待合室の、何を言っても通じない老婆
など、断片的なシーンはそれぞれ面白く読めるのですが、「で、何?」と思ってしまうのです。
結論から言うと、私にとってまだ理解できていない作品でした。再読必須です。
二文目の「どのような場所で行われているか掴みづらい」について、そんなことはありません。描写は少なめですが、物語がどこで行われているかはわかります。この点は、前回より私の読解力が向上していると言えます。
三文目の「一気に読ませるだけの何かがある」についても、そんなことはありません。読むのは苦痛でした。意味を読み取りにくいからです。
なぜ、前回よりも読むのが苦痛だったのかを考えると、他の乗代作品と比較していたからかもしれません。『旅する練習』、『最高の任務』、『本物の読書家』に比べると、本作は掴みどころがないのです。
それが四文目の、「実験的な言葉遊びのように感じる」につながります。前回の感想にある「実験的な言葉遊びが純文学というもの」とは感じませんでしたが、言葉遊びが、物語をややこしくしているとは思いました。だからこその新人賞受賞作なのでしょう。
本作の巻末に、新人賞を受賞したときの選評が載っています。まるで、読者が本作を放り出してしまう前に、「とりあえず選評だけでも読んだら」と言われているような気がします。実際、先に選評を読んでいなければ、私は途中で放り投げていたかもしれません。
なぜ、最後まで読んだのかというと、途中で読むのをやめたら、「名だたる選考委言に絶賛されている作品を放り投げた『あなた』がわかっていないですよ」と思われそうだからです。「誰に?」誰かにではなく、私自身がそう思っていると勝手に意識するだけです。
高橋源一郎さんの選評で、
文学は、あるいは、小説という試みは、ついに掴むことのできない秘密を追い求めることばの運動であることを、この作品は教えてくれる
とあり、物語よりも、言葉の連なりが重要なのかもしれないと思いました。
辻原登さんの選評で、
この小説らしき書き物を私は要約することができないし、するつもりもない。
(中略)
この中身のない小説を受賞作として強く推したのは、時折、何を言っているのか分からないセンテンスやパラグラフから上がる軋み音の中に、ある種の捨ておけない才気が感じられたからである。
とあり、小説家に「要約できない」「中身がない」と言われているにも関わらず、「捨ておけない才気が感じられた」と言わしめています。
「他の作品にはない」という点が、新人には強く求められているのだと感じました。
調べた言葉
- 蛮勇:向こう見ずの勇気
- 妙好人:行いの美しい者
- 本尊(ほんぞん):課題や事柄の中心となるもの
- おくび:げっぷ
- いたいけ:幼くてかわいらしい
- 間欠:一定の時間をおいて、起こったりやんだりすること
- 器量:顔立ち
- 目こぼし:わざと見逃すこと
- 意気軒昂(いきけんこう):意気込みが盛んで元気なさま
- 浅ましい:考えが浅く、愚かなさま
- 取るに足らない:取り上げるほどの価値がない
- 一言半句:ほんのわずかな言葉
- しめやか:しんみりと落ち着いているさま
- 思案投げ首:考えが浮かばず首を傾げること
- 恬然(てんぜん):何事も気にかけることなく平然としているさま
- にべもなく:そっけなく
- 気色ばむ:怒りをあらわす
再読したときの感想はこちらです。