ぶちのめされても負けない
読むまでの印象は、
- 老人が、海で大きな魚を釣り上げる奮闘記
- 辛いことでも、我慢し苦労すれば、良い結果が得られる
でした。全く違いました。
老人は、命を懸けてカジキマグロを釣り上げ、釣り上げた後も命がけだったのです。
特に釣り上げた後は、
- 血のにおいを嗅ぎつけた鮫との攻防
- 鮫を倒しても、新たな鮫がやってきて、それを倒しても……の繰り返し
鮫がやってくる度に、カジキマグロが少しずつ食べられていきます。
そして港の灯が見えた後、鮫の群れが襲い掛かります。
老人は対処できず、骨になるまでカジキマグロを食い尽くされてしまいました。
命を懸けて、後に残ったのは、カジキの頭、尾、骨でした。
それでも老人は、
いい調子だ、と彼は思った。舟は無事だ。舵棒が折れただけで、あとは何でもない。そんなものは取り替えがきく。
(中略)
負けてしまえば気楽なものだ。こんなに気楽だとは思わなかった。さて、何に負けたのか。
「何でもない」と声に出した。「沖へ出すぎたんだ」
老人は負けたと思っていません。
一人で沖に出すぎたからと納得しています。
人間、負けるようにはできてねえ。ぶちのめされたって負けることはねえ
負けは気の持ちようで何とでもなると、言葉で言うのは簡単ですが、
手に入れた大物を失って、こんな清々しくいられる境地って何なのでしょう。
何かを頑張りたい人、頑張ってもだめだと思っている人におすすめです。
結果や周りで、接し方を変えない少年
老人は、84日間、一匹も釣れません。
40日目までは、漁に同行する少年がいました。
しかし、親に反対され、少年は老人に同行できなくなります。
全く釣れない老人には、周りから、冷やかしや同情が向けられます。
それでも少年は、老人にご飯や酒を準備をしたり、話し相手になったりします。
少年は、老人から漁をまだまだ教わりたいと思っています。
一人で海から帰ってきた老人は、カジキの頭、尾、骨を持ち帰ってきたことで、周りから驚かれます。
食い尽くされたとしても、釣った事実は変わりません。
少年は、くたくたになった老人の世話をします。
少年は言います。
「また二人で漁に出られるよね」
「いや、おれには運がない。もう見放されたよ」
「そんなのどうでもいい」少年は言った。「僕の運を持っていく」
食い下がる少年に、老人は準備の大切さを伝えます。
少年は、早くよくなってと、老人に言います。
次は、二人で海に出るのでしょう。
そしていつか、二人でカジキを釣り、鮫に食われずに帰ってくるはずです。
私は、老人のような屈強な人間になれなくても、
少年のように、信じたものを、結果や周りに左右されずに信じていたいです。
調べた言葉
- 沽券に関わる:体面や品位にさしつかえる
- 氷室:氷を夏まで貯蔵しておくための部屋
- 燐光(りんこう):光を当てられた物質から、残光が見られる現象
- 軍艦鳥:全体黒色の大きな海鳥
- 流感:流行性感冒。ウイルスの感染によって起こる急性・伝染性の風邪
- プリズム:光学ガラスなどでできた透明な多面体
- 曳航(えいこう):船が他の船を引いて航行すること
- 艫(とも):船の後方
- やおら:ゆっくり
- 舷側(げんそく):船の側面