死と隣り合わせのビルの窓拭き
主人公の女性は、窓拭きの仕事をしています。
前職のデザイン会社は、連日の徹夜作業で辞めてしまいました。
彼女は、友人や親から「なぜ窓拭き?」と訊かれても、うまく答えられません。
広告代理店に勤める彼氏からは、「辞めたら?」と言われます。
彼によれば、危険なうえに歳をとったら働けなくなる窓拭きは、職業とはいえない、ということだった。そんなのはどこにも行き場のない人間がやればいいことで、わざわざお前がやることはないんだよ、とも言った。
言い方は別として、身の危険を心配する気持ちはわかります。
高層マンションの窓拭きは、死と隣り合わせです。
補助ロープがあっても、メインロープが切れて宙吊りになったら、
肋骨や背骨が折れたり、内臓が破裂したりすることもあるそうです。
周りの人間としては、そのような仕事に就いてほしくないでしょう。
それに、待遇も良くありません。
主人公は先輩に訊きます。
「なんで肉体労働って、そんな安い扱いなんですかね」
「さぁ。なんでだろうね」
そんな話をしながらも、ふたりともからから笑っているのだった。
待遇の不満を言い、からから笑えるのは、待遇以外の何かがあるからですよね。
仕事をなんとなく続けている人や、仕事で悔しい思いをしている人におすすめです。
待遇以外の何か
「待遇以外の何か」を持っている人には、かなわないと思いました。
窓拭き仕事に比べると、私の仕事は危険が伴わないし、待遇も良いでしょう。
ですが、私には「待遇以外の何か」がないので、仕事の質は一定で、仕事での成長は見込めません。
主人公の先輩が言います。
「外を見る人にとっては、窓枠は額縁、外の景色が絵だよ。つまりぼくらってのは、せっせと窓拭いて、額縁のなかにきれいな絵を描きだしてんだよ」
もう一人の先輩は、
たかがガラスでも、自己満足も許されない仕事なんか、やる意味がないっておれは思うんだ。人生のほとんどの時間は、仕事なわけでしょ?
私は、仕事を仕事として割り切っているので、自己満足はありません。
どう効率的に終わらせるかが重要です。
この小説だと、窓拭きの仕事に就く前の、デザイン会社で働く主人公に近いです。
ただ私は、徹夜作業がなく、定時で帰っています。
主人公の彼氏は、主人公に言います。
なんでお前がその仕事をしているか。それは、やりたいことがみつかってないからだよ。やりたいことがわかんないから、刺激に満ちた仕事をやることで、自分の現実を忘れようとしてるんだ。
やりたいことがあっても、それで食っていけない場合、どうしたらいいのでしょう。
最低限の仕事をして、残りの時間にやりたいことをするしかないですよね。
調べた言葉
- 硬質:質がかたいこと
- ギャルソン:ホテルやレストランのボーイ
- 烙印(らくいん):火で焼いて物に押し当てる金属製の印
- ほうける:ぼんやりする
- 逃げ水:前方に水たまりがあるように見え、近づくとそれがさらに前方へ移って見える現象