ビートたけしの師匠
ビートたけしさんが漫才師になる前に過ごした「浅草フランス座」での出来事を描いています。
浅草フランス座では、ストリップショーの間に、お笑いコントをやっています。コントがメインではありません。
浅草フランス座のお客さんは、女性の裸を見るために来ます。
その客にコントをするので、笑いを取るのは難しいです。
主人公は、浅草フランス座で行われるコントの師匠に心酔します。
師匠は本気で笑いに取り組んでいる人でした。
主人公は、
- 舞台のエレベーターボーイ
- 師匠のかばん持ち
- 舞台の雑用
- 師匠のタップダンスの完コピ
- 舞台の司会進行
- コントの代役出演
と、ステップアップしていきます。
「浅草キッド」というタイトルは、若い頃のビートたけしを示す言葉だと思っていました。一人の若者(キッド)が、浅草で成り上がっていく姿を表す言葉だと錯覚していました。
映画を観た後、「浅草キッド」は主人公ではなく、師匠を表す言葉だと感じました。
主人公のビートたけしは、浅草フランス座を辞め、別の舞台で漫才を始めます。漫才で売れ、テレビ出演をし、スターになっていきます。
一方、師匠は浅草フランス座で、ストリップショーの合間のコントを続けています。
全く売れず、ストリップの客も途絶え始め、浅草フランス座の運営に支障をきたします。
師匠は、弟子の紹介で、工場での仕事を始めます。年下の先輩に馬鹿にされながら、金を稼ぐために働きます。
師匠の奥さんも、飲み屋の仕事を始めます。
客が離れても、弟子が離れても、師匠の奥さんは、師匠のコントのファンであり続けました。
ですが、師匠の奥さんは過労で倒れ、亡くなってしまいます。
奥さんを亡くした師匠は、廃人になってしまいます。
師匠の奥さんが亡くなったことを知らない主人公は、漫才で賞金をもらった帰り、師匠の家に行きます。
主人公は、賞金を師匠に渡します。
小遣いですよ小遣い
と笑いを交えます。
師匠は、
弟子が師匠に小遣い渡すなんてな、聞いたことねえよ
と言いつつ、お金を受け取り、2人で飲みに行きます。
2人は居酒屋でフリートークをし、客や店員の笑いをかっさらいます。
帰り道の、
師匠受けましたねえ
受けたなあ
のやりとりが、どうしようもなく良いです。
主人公は、廃人だった師匠を、再生させました。
師匠は、奥さんの遺影の前で、
俺も負けてらんねえからよお
と宣言します。
人を復活させるのは、金ではなく、自信なのだと思いました。
師匠に工場の仕事を紹介した弟子が悪いわけではありません。生活に苦しんでいる師匠を見て見ぬふりをできず、仕事を紹介したのでしょう。
一方、主人公は、師匠の教えを忠実に守りながら、居酒屋で笑いをかっさらったことで、師匠に自信を取り戻させました。
「浅草キッド」は弟子に小遣いをもらい、妻に愛され、最後まで舞台で戦った、頑固者の子どもでした。