真偽不明なタイムトラベル
2009年のネット掲示板に、
「2112年から来たけど、答えられる範囲で質問に答える」
というスレッドが立ち上がりました。
そこで予言された3つが、後になって的中したと判明します。
- 大震災と大津波
- 長期の自民党政権
- 日本のある一帯が立入できなくなる
予言的中により、スレッドを立ち上げた「2112氏」が有名になって、掲示板への再登場が熱望されます。
その結果、「時間旅行者をもてなすスレ」のオフ会に、「2112氏」が参加することになりました。
オフ会当日の2016年12月。主人公のAV女優は、オフ会に参加します。
そこで、主人公の孫だと名乗る青年(=自称2112氏)に会います。
未来からタイムトラベルしてきたと言うのです。
主人公は、真偽がわからぬまま、自宅マンションに住まわせます。
以下に興味がある人におすすめです。
- タイムトラベル
- ネット掲示板
タイムトラベラーに振り回される人々
「2112氏」に振り回されるスレの住人たち。
7年経っても、タイムトラベルの真偽はわかりません。
なぜ、そこまで振り回されるのでしょうか。
未来からタイムトラベルしてきたとしても、それがでっち上げられた嘘だとしても、
スレの住人の人生には影響はないのにです。
タイムトラベラーは、やじうまに構うためにタイムトラベルしたわけではないからです。
「2112氏」の考えは、
タイムマシンとして世に広く出回っているあの機械の正体とは、使用者の肉体を分解してしまう装置なのだ。(p.41)
そんなリスクを冒すのですから、赤の他人に関わってる場合ではありません。
なのに人々は、スレッドの書き込みに一喜一憂します。
どういう心理なのか、考えられるのは3つです。
- タイムトラベラーがいた事実に立ち会いたい
- 自分もタイムトラベルできるかもしれない
- タイムトラベルの真偽よりも雑談を楽しみたい
1は自慢、2は期待、3は暇つぶし。
3の動機が最も強そうで、単純に楽しいからなのだと思います。
ネット上で繰り広げられる匿名の言葉には、責任がありません。
責任を離れ、一つの話題で盛り上がる心地よさがあるでしょう。
人々の書き込みは、振り回されているのではなく、振り回しています。
匿名だからこそ何でも書けるし、真偽は確かめようがありません。
以下は、タイムトラベルで生じる無限の未来についての書き込みです。
枝分かれする無限の未来なんて、今に始まったことじゃなくて、タイムトラベルをしようがしまいが目の前で、目には見えないけど常に発生しているわけだろ?(p.61)
つかみどころがないし、つかもうとすること自体、無意味な気がしてきました。
調べた言葉
- キュロット:半ズボン式にすそが分かれたスカート
- 俄か:突然
併録されているデビュー作『二人組み』の感想はこちらです。