人を救うのは
「Dr.コトー診療所」は、沖縄の離島で働く一人の医者と、島で暮らす人々を、描いた作品です。
医者の名前が五島(ごとう)で、あだ名がコトーです。
2003年、2004年、2006年に放送されて、2022年に映画化されました。
子どもの頃に見ていたとき、特に2003年のシリーズでは、コトー先生や看護師の彩佳さんに、感情移入していたように思います。
島のほとんどの住民は、東京から来たコトー先生を信頼しません。
最初は信頼できないのもわかります。
ですが、コトー先生に救われた患者がいて、それを島民たちもわかっているのに、コトー先生が島から出て行かざるを得なくなったときに、島民は呼び止めません。
看護師の彩佳さんが、コトー先生を呼び止めなかった島民たちに、涙ながらに訴えるシーンで、子どものときの私も、涙したのを覚えています。
それから約20年経って映画化です。
島は変わってないなというのが第一印象でした。映像が綺麗になっているので、海が綺麗です。
風景も、診療所も変わっていなく、作中で流れる音楽も聞き覚えのあるものでした。
コトー先生は髪が真っ白になっていたくらいで、彩佳さん(柴咲コウさん)の変わらなさには驚きました。
コトー先生の往診に使う自転車が、電動自転車に変わっていました。
年齢を重ねたことを、電動に替えることで表現したのかと思いましたが、そうではありませんでした。
コトー先生は病気にかかっていました。
島の医療をほとんど一人で担ってきたコトー先生。
島民は、コトー先生に頼りきりでした。
コトー先生の後を継ぐ人がいません。
コトー先生に憧れ、島を出て東京の学校に行き、医学部に進学した剛洋という青年がいます。
2003年のドラマでは、コトーや彩佳さんに感情移入して見ていましたが、2022年の映画では、剛洋に感情移入していました。
島民は、剛洋がコトー先生の後を継ぐと思って、期待しています。
しかし、剛洋は医学部を卒業してませんでした。
成績が落ちて、奨学金を打ち切られて、休学後に中退していました。
本作のキャッチコピーに、
人を救って人に救われて、
ずっと、ここで生きてきた
とあります。コトー先生のことでしょう。
コトー先生は、東京で働く優秀な医者でした。
実績を持った優秀な医者だから、離島の診療所でも成立した医療なのかもしれません。
それを、実績のない剛洋に期待するのは酷です。
剛洋は、島民の期待に応えたいと思っていたでしょう。
しかし、医学部を卒業できず、島にも帰れないでいます。
剛洋は、父の怪我を知り、島に帰ることになります。
医学部を中退したことを知らない父は、剛洋に東京に帰るように言います。
剛洋は、自分が医学部を中退したことを言い出せません。
人は、人によって生(活)かされていると感じます。
期待を背負うのも、力を発揮するには必要なのかもしれません。
しかし、期待に応えられなかったとき、力が及ばなかったとき、傷つくのは、期待していた人よりも、期待されていた人だと思います。
期待を背負った人が、期待を応えようとして、期待に応えられなかったとき、誰が批判できるでしょうか。
人を救うのは、期待ではなく、寄り添った行動だと思いました。
島が台風の被害を受けたとき、剛洋の友達は、剛洋に協力を求めます。
剛洋を強引に引っ張り出します。
剛洋は、友達に連れられて、自分にできることをやろうとします。
剛洋役の富岡涼さんは、今回の映画限定で俳優業に復帰したそうです。
富岡さんは、島民の期待に応えられない申し訳なさや、自分の情けなさなど、言葉ではない表情での演技が多かったですが、素晴らしかったです。
「Dr.コトー診療所」に富岡涼さんは不可欠だと、改めて感じました。
今作で完結だそうですが、
- コトー先生の病気は治ってない
- 剛洋の父の怪我も完治してない
- 剛洋が医者になってない
物語は完結していないでしょう。
剛洋の今後がどうなるのか、描いてほしいと思いました。