ひらがな、カタカナを多用する文体
「あいつ、ながくないらしいんよ」
とハルオはいった。
ハルオの彼女の見舞いにいったかえりだった。
おれは、
「ビョーキ?」
ときいた。(p.9)
本来、漢字で書くところを、ひらがなやカタカナが使われています。
その文体は芥川賞を受賞した『1R1分34秒』でも見られます。
ひらがなやカタカナ表記だと、その言葉の響きを強く感じます。
「病気?」よりも「ビョーキ?」の方が、言葉が響いている感じがしませんか?
以下に興味がある人におすすめです。
- 特徴ある文体
- 読みやすい純文学
- ボクシング
- 才能ない主人公と才能ある友人
- 繊細な人間関係
一言あらすじ
プロボクサー志望の主人公は、友人から見舞いに付き合うよう言われた。行った先には、難病である友人の彼女がいた。
主要人物
- 秋吉:おれ。プロボクサー志望だが才能がない
- ハルオ:秋吉の友人。難病で入院している彼女がいる
- 梅生:プロボクサー志望。才能がある
言いにくいことを人に伝えるときに
人に言いにくいことってありますよね。
私は、人を怒るのが難しいです。
怒られることよりも怒ることが苦手で、せいぜい笑みを浮かべて指摘するくらいです。
ハルオの彼女は不治の病で入院しています。
それを、秋吉に伝えるときにどうするか。
ボチャ
という、かわいい音がした。横をみると、ハルオはいない。うしろ向きに、池に落ちていた。(p.10)
ハルオは、明るくしようと、わざと池に落ちたのです。
秋吉には「は?」と聞き返す癖があります。
その癖をハルオは嫌っています。それを注意するときにどうするか。
ハルオは ポケットからとりだしたのど飴をくれた。
「は?ってすぐいうのやめえや。感じわるいで」(p.48)
ハルオは言いにくいことを伝えるときに、何かを渡すのです。
私も人に注意するときには、飴を渡そうと思います。
言いたいことを言える関係
秋吉は、梅生にスパーリングでボコボコにされますが、言いたいことを言います。
たとえボコボコにされたはずかしさ、屈辱感があったとしても、
「お前、捨てジャブがわかりやすすぎだし、リーチにあまえて距離がてきとうなんだよ」とかいえるようになった。
(中略)
「才能ないからなー」
梅生には、そういうこともへいきでいえた。(p.90)
- 自分が負けたのに、相手の悪いところを指摘する
- 自分に才能がないと、相手に言う
相手への信頼がないとできません。
本書を読むと、信頼は、その場(ボクシングジム)ではなく、別の場所(プライベート)で育まれるものだと感じます。
仕事終わりの小規模な飲み会で、仕事以外の話を同僚から聞くと少し信頼するのは、そのためでしょう。
調べた言葉
穏当:穏やかで無理のないこと
餓える:不足を感じて、ひどく欲しがる
めざとい:見つけるのが早い
不興:興味がさめること
言外:ことばに表されていないところ