いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いています。

締め切りに追われるゲイの大学院生 千葉雅也『デッドライン』(野間文芸新人賞受賞)の感想(1000字)

締め切りに追われるゲイの大学院生

 デッドライン=修士論文の締め切りです。

 主人公は、哲学を研究する大学院生です。

とりあえず惰性でモースの研究を続けていた。それでいいのかどうかはまだよく考えていなかった。(p.10)

 モースの研究をするのは、流されて行き着いた先という印象です。

 院に進学しておきながら、熱を感じません。

インテリっぽい言葉のカッコよさに――内容は二の次で――憧れていて、大学入学後は、現代思想や批評の本を齧っては真似事の文章を書き、ホームページに載せていた。(p.18)

 一方、夜になると、男として男を欲望します。それを周りに公言しています。

 ゲイだからと、友人にいじめられたり距離を置かれたりしません。よくあるマイノリティが攻撃される物語ではありません。

 タイトルの「デッドライン」は、締め切りだけでなく、死の線も意味します。

 以下に興味がある人におすすめです。

  • 大学院生の日常
  • 男を欲望する男の日常
  • 哲学的思考
新潮 2019年 09 月号 [雑誌]

新潮 2019年 09 月号 [雑誌]

 

一言あらすじ

 男を欲望する大学院生は、修士論文が書けない。周りの大学院生との交流やゲイバー通いの日常。その間にも締め切りは迫っている。

 

主要人物

  • 主人公:「○○」と表記される。男を欲望する大学院生
  • 徳永先生:主人公の指導教授。専門は中国哲学

 

泳いでる魚が楽しそうだとわかるのか

 徳永先生の授業での問答です。

  1. 泳いでいる魚を見て「楽しそうだ」と言った。
  2. それを聞いた人が、「あなたは魚でないのに、なぜ楽しそうだとわかるのか」と言った。

 楽しそうに泳ぐ魚って、確かにいますよね。

 なぜ魚ではないのに、そう思うのでしょうか。

 徳永先生の推論です。

ある近さにおいて秘密を共有することなのだと徳永先生は言った。それは魚に「なる」ことだと思った。(p.49)

 ある近さで自分と魚が一体化するから、楽しそうだとわかるわけです。

 近さは、物理的距離というより心理的な距離でしょう。

 とはいえ、魚に「なる」ってどういう状態なのか。

 個人的には、魚が楽しそうに見えるだけで、どんな近さでも、楽しいかどうかは魚にしかわからないと思います。

 一体化する感覚を味わったことがないからかもしれません。

 

ある近さで一体化する

 一体化は、性描写でも登場します。

挿入側として挿入するのではない。「挿入側として」という分離なしで、彼女の身体への一致として挿入する、のかもしれない。それは、言い換えれば「彼女になる」ことなのではないか。(p.70)

 魚になったり彼女になったり。人間とも動物とも、ある近さで一体化します。

 ヱヴァンゲリヲンの人類補完計画を思い出しました。

 では、締め切りが迫った主人公は何と一体化するのか。

 哲学的思想にあふれた作品です。

新潮 2019年 09 月号 [雑誌]

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調べた言葉

活人画:画中の人物のように動かずにいるもの

気宇壮大:気前のよい

大儀そう:気だるそう

憮然:呆然とするさま

虚をつく:油断しているところをつく

不渡り:小切手の所持人が、期日になっても支払人から支払いを受けられないこと

 

第41回野間文芸新人賞の候補作についてはこちらです。