いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『デッドライン』千葉雅也(著)の感想【締め切りに追われるゲイの大学院生】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補、三島賞候補)

締め切りに追われるゲイの大学院生

デッドライン=修士論文の締め切りです。

主人公は、哲学を研究する大学院生です。

とりあえず惰性でモースの研究を続けていた。それでいいのかどうかはまだよく考えていなかった。

モースの研究をするのは、流されて行き着いた先という印象です。

院に進学しておきながら、熱を感じません。

インテリっぽい言葉のカッコよさに――内容は二の次で――憧れていて、大学入学後は、現代思想や批評の本を齧っては真似事の文章を書き、ホームページに載せていた。

一方、夜になると、男として男を欲望します。それを周りに公言しています。

ゲイだからと、友人にいじめられたり距離を置かれたりしません。よくあるマイノリティが攻撃される物語ではありません。

タイトルの「デッドライン」は、締め切りだけでなく、死の線も意味します。

以下に興味がある人におすすめです。

  • 大学院生の日常
  • 男を欲望する男の日常
  • 哲学的思考
デッドライン

デッドライン

  • 作者:千葉 雅也
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: 単行本
 

一言あらすじ

男を欲望する大学院生は、修士論文が書けない。周りの大学院生との交流やゲイバー通いの日常。その間にも締め切りは迫っている。

主要人物

  • 主人公:「○○」と表記される。男を欲望する大学院生
  • 徳永先生:主人公の指導教授。専門は中国哲学

泳いでる魚が楽しそうだとわかるのか

徳永先生の授業での問答です。

  1. 泳いでいる魚を見て「楽しそうだ」と言った。
  2. それを聞いた人が、「あなたは魚でないのに、なぜ楽しそうだとわかるのか」と言った。

楽しそうに泳ぐ魚って、確かにいますよね。

なぜ魚ではないのに、そう思うのでしょうか。

徳永先生の推論です。

ある近さにおいて秘密を共有することなのだと徳永先生は言った。それは魚に「なる」ことだと思った。(p.49)

ある近さで自分と魚が一体化するから、楽しそうだとわかるわけです。

近さは、物理的距離というより心理的な距離でしょう。

とはいえ、魚に「なる」ってどういう状態なのか。

個人的には、魚が楽しそうに見えるだけで、どんな近さでも、楽しいかどうかは魚にしかわからないと思います。

一体化する感覚を味わったことがないからかもしれません。 

ある近さで一体化する

一体化は、性描写でも登場します。

挿入側として挿入するのではない。「挿入側として」という分離なしで、彼女の身体への一致として挿入する、のかもしれない。それは、言い換えれば「彼女になる」ことなのではないか。

魚になったり彼女になったり。人間とも動物とも、ある近さで一体化します。

ヱヴァンゲリヲンの人類補完計画を思い出しました。

では、締め切りが迫った主人公は何と一体化するのか。

哲学的思想にあふれた作品です。 

デッドライン

デッドライン

  • 作者:千葉 雅也
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: 単行本

調べた言葉

  • 活人画:画中の人物のように動かずにいるもの
  • 気宇壮大:気前のよい
  • 大儀そう:気だるそう
  • 憮然:呆然とするさま
  • 虚をつく:油断しているところをつく
  • 不渡り:小切手の所持人が、期日になっても支払人から支払いを受けられないこと

3回読んだときの感想はこちらです。

第33回三島賞の候補作、受賞予想はこちらです。

第162回芥川賞の候補作、受賞予想はこちらです。

第41回野間文芸新人賞の候補作、受賞予想はこちらです。