いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『列』中村文則(著)の感想①【列とは何か】

列とは何か

主人公は何かの列に並んでいます。

その列は長く、いつまでも動かなかった

先が見えず、最後尾も見えなかった

主人公は何のために列に並んでいるか、わかりません。

いつからか、列に並んでいます。

列に並んでいる前後の人たちと、会話はあります。

  • 人の行動を注意する人
  • 列の前方を見てくるから場所を取っておいてほしいと言う人
  • 一緒に列から出ようと提案する人

列とは一体、何でしょうか。

列が人間の集合体のように書かれていると思いました。

一人ひとりは個ですが、列全体で見たら、決められた原則で行動してる集合体のような感じです。

列を構成してる個は、どれも変えが効きそうで、その個でなければいけない理由はない感じがしました。恐ろしいことですが。

例えば、

自分が最後尾だったら、と想像する耐えられない最後尾なら、列に並ぶ意味はない後ろに人がいなければ、列に価値はない

後ろに誰かがいればいい。誰だっていいんです。

その感覚は誰にでも当てはまりそうな気がします。

列の後ろに誰かがいる安心感、私もなんとなくわかります。

自分が一番後ろでなくなったとき、どこかほっとする気がします。

別に一番じゃなくてもいいでもみんなの中では、できれば前の方にいたい……友人に、家族を侮辱されたことを思い出しました。ここより前に行けば、もう侮辱されない

これは主人公の発言ではありませんが、この感覚もわかります。

誰でもいいけど、自分より後ろに誰かいてほしいという感覚です。

列を構成するのは、ありふれた個の集合です。

どこにでもいそうな個なので、私もその感覚を共有しやすいです。

列とは何だろうという疑問が拭えないまま、第一部が終わり第二部が始まります。

列に並ぶ主人公が描かれる第一部とは変わり、第二部では、猿の研究をしていた頃の主人公が描かれます。

主人公は、准教授になれずに歳を重ねてきた、大学の非常勤講師です

准教授が辞めることで准教授のポストが空くことを知った主人公は、

他人の研究生活の諦念に、口角が上がる自分に気づいた

私は「列」だと思いました。

列は、大学のポジション争いにも存在しています。

――では、私は何の列に並んでる?

会社の出世競争に参加してるつもりはありませんし、誰かの退職に口角は上がりません。

芸能人が落ち目になっても、私が代わりにその地位になれるわけではありません。その地位にふさわしい人間は、他にいます。

公募の新人賞では、他の作品の受賞待ちをしているわけではありません。自分の作品が面白ければ受賞するのであって、受賞は順番待ちしてできるものではありません。

本作の列では、順番抜かしはありません。

力づくで順番を変えることも、他の人の分の場所を確保することも、できません。

そして列はどこにでもあります。

どの方向を見ても、人が並んでる反対でも、斜めでも。(中略)向きを変えれば別の比較になって、先頭じゃなくなる全てトップの人間なんていないですからね

本作の列は公平です。

公平な列に近いものはなんだろうと思うと、死(生)が浮かびました。

私は死を待つ列には並んでいると言えます。

列を外れることはできません。外れたところで生から逃れることはできません。

唯一の救いは、

何かを諦めても、また別の列があるからいいじゃないか、と思うことはできる

准教授のポストを諦めることには当てはまるでしょう。

しかし、死(生)の列からは逃れられないと思いました。

列

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感想②はこちらです。