整理券に書かれたもの
感想①はこちらです。
主人公は列に並んでいます。
何の列か、いつから並んでるかはわかりません。
並んでる理由もわからないのに、列を抜けることはしません。
主人公は、後ろの人から伝言を受けます。
後方からの噂ですが、どうやら私達は全員、整理券を持ってるらしい
整理券はポケットに入っているようです。
私達が、何のために並んでるかわかる。それが書かれている
という整理券です。
主人公は、
知りたくない
と言います。
伝言をした人も同様です。
嫌だ。自分を知ることになる
この感覚はなんでしょうか。
何の列かわからずに並んでいた人たちに差し伸べられた、整理券。
整理券を見れば、何のために並んでいたかわかります。
それなのに、知りたくないという考えが浮かんでしまうのは、なぜでしょうか。
整理券を見れば、自分を知ることになります。
知りたくないのは、自分を知らずに生きていた方が良い、ということになります。
自分を知ってしまうと、それにとらわれて生きていかなければならなくなる、ともいえます。
整理券は、自分の願望です。
他人の整理券には、「同期で最初に部長になり、とにかくもてること」「仮想通貨」と書かれていました。
それを見た主人公は、
何とつまらない人間だろう
と思います。
主人公は、大学で猿の研究をしている非常勤講師です。
整理券を見るまでもなく、論文を発表することが、主人公の整理券に書かれているべきことだとわかっていました。
しかし、主人公の整理券には、
列に並ぶこと
と書かれていました。
主人公の目的は、列に並ぶこと、それ自体でした。
主人公の整理券を見た人は言います。
何かの願いより、もう並ぶことが目的になってるんですよ。……最悪だ。もう中毒に等しい。
主人公は否定しますが、整理券に「列に並ぶこと」と書かれている以上、否定できません。
主人公の整理券を見た人は同情します。
他人と自分を比べてずっと文句を言い、ずっと苦しんでいたいんだ
これが、「列に並ぶこと」の一つの意味です。
一つの意味と書いたのは、列に並ぶ意味の全てが、「他人と自分を比べてずっと文句を言い、ずっと苦しむ」だと、私は思わないからです。
主人公の整理券には、どうして「論文」と書かれずに、「列に並ぶこと」と書かれていたのでしょうか。
主人公が「他人と自分を比べてずっと文句を言い、ずっと苦しんでいたい」ようには、私には見えませんでした。
主人公が准教授のポストにつけなかったことに文句を言い、苦しんでいたのは確かです。
准教授のポストを奪うため、ポストに就く予定の後輩を殺せる寸前までいきました。
殺さなかったのは、主人公が自らの境遇にずっと文句を言いたかったわけでも、ずっと苦しんでいたかったわけでもありません。
同種を殺す拒否感を、生物学に関わる私は、その尊重を直視させられる。
それに、若い人間は殺せない。人生を侮蔑するなら別の方法だ。
と、准教授のポストのための殺人を、主人公はしませんでした。
主人公が文句を言い、苦しんでいたいわけではないのに、主人公の整理券には「列に並ぶこと」と書かれていました。
主人公の願望と思われるもの(深層心理)は、列に並んだことで達成されましたが、なぜ整理券に「列に並ぶこと」と書かれていたかは、わかりませんでした。