ニセモノのバス停
「海岸通り」とは、バス停の名前です。
老人ホームの敷地にあります。
しかし、そのバス停に、バスは停まりません。
偽物のバス停です。
主人公は、老人ホームで派遣の清掃員をしています。
偽物のバス停をみがきます。
バス停は偽物でも、役割があります。
家に帰りたがる高齢者を、偽物のバス停の前で待たせ、
「なかなか来ないですねえ」などと言って宥め、「今日は来ないみたいですからまた明日」とキリのいいところで部屋に戻す。
偽物のバス停は、高齢者のクールダウンの場として、機能してるそうです。
本物のバス停だったら、高齢者がバスに乗って遠くに行ってしまう可能性があります。
ニセモノにはニセモノの意味があり、矜持がある。
偽物のバス停として、役割を果たしてます。
そのバス停によく来るサトウさんという高齢女性と、主人公は話します。
主人公は、清掃職員としてではなく、サトウさんの娘として話します。
サトウさんは、主人公のことを、義理の娘だと思ってます。
主人公も、サトウさんに話を合わせます。
サトウさんと話すのは、バス停でだけではありません。
主人公は、仕事が休みの日に老人ホームへ行き、サトウさんの部屋で話すこともあります。
休日も、サトウさんの娘のふりをします。
なんでだろうと、疑問に思います。
何のために休日に職場へ行き、老人ホームの入居者と話すのか。
「ニセモノの矜持」でしょうか。どんなプライドなのか。
老人ホームの一利用者に、どうしてそこまでこだわるのか。
わたしには帰るべき実家もないし、頼れる家族もない。それは存在しているとかいないとかいう話でない「ない」だ。
家族のない主人公が、偽物の家族でも演じたかったというのは、私の考えすぎかもしれません。
ある日、主人公は、清掃の仕事を辞めるよう言われます。
上司から、一方的にクビを宣告されます。
あなたの行動が少しずつ問題として報告されてます
と言われます。
備品が減ったり、備品がフリマサイトで出品されてたりと、疑いをかけられます。
のちに疑いは晴れ、上司に、
望むなら、この施設の仕事を続けても構いません。勝手な話ですが、あなたの仕事は評価しています
と言われます。主人公は、
自分の内側に生まれた感情の名前がよくわからなかったし、よくわからないままその心の色を眺めた。
- 疑われてクビだと言われ、
- 疑いは晴れたし、仕事ぶりは評価してるから、働いてもいいと言われる
何なんでしょうかね。
主人公は、清掃の仕事を辞めることにします。
タイトル「海岸通り」は、偽物のバス停の名前ですから、偽物の象徴とも言えます。
バス停以外にも、本作には偽物が登場します。
- サトウさんの娘のふりをする主人公
- ファミリー(ホーム)と称した、ウガンダ人のコミュニティ
ウガンダ人のコミュニティでは、オトウサンと呼ばれる、長の人物がいます。
オトウサンは、日本の文化を知らずにアフリカなどからやって来た人を、サポートしてます。
本物のオトウサンでなくても、日本に来た人の支えになってます。
オトウサンも、誇りを持って取り組んでることでしょう。
仕事と住居を失った主人公は、ウガンダ人のコミュニティに助けてもらいます。
ニセモノにも偽物なりの意味があり、役割があり、矜持があることを示す作品でした。
一方、謎も多くあります。例えば、
- 主人公は名前を聞かれるが、明かされない(蛇みたいな意味だった気がする名前らしいが、不明。生まれた年にちなんだものらしい。へび、へび年、巳。「みい」? まさか「みさき」(サトウさんの娘の名前)?)
- 主人公は欲しい名前があるらしいが、明かされない
- バス内のにおいについて、乗客が「変なにおい」「知ってるにおい」「会ったことがある」と言うが、何のにおいか、明かされない
明かされない謎。訳があるのかもしれませんが、私には読み取れませんでした。