いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『海岸通り』坂崎かおる(著)の感想【ニセモノのバス停】(芥川賞候補)

ニセモノのバス停

「海岸通り」とは、バス停の名前です。

老人ホームの敷地にあります。

しかし、そのバス停に、バスは停まりません。

偽物のバス停です。

主人公は、老人ホームで派遣の清掃員をしています。

偽物のバス停をみがきます。

バス停は偽物でも、役割があります。

家に帰りたがる高齢者を、偽物のバス停の前で待たせ、

「なかなか来ないですねえ」などと言って宥め、「今日は来ないみたいですからまた明日」とキリのいいところで部屋に戻す

偽物のバス停は、高齢者のクールダウンの場として、機能してるそうです。

本物のバス停だったら、高齢者がバスに乗って遠くに行ってしまう可能性があります。

ニセモノにはニセモノの意味があり、矜持がある

偽物のバス停として、役割を果たしてます。

そのバス停によく来るサトウさんという高齢女性と、主人公は話します。

主人公は、清掃職員としてではなく、サトウさんの娘として話します。

サトウさんは、主人公のことを、義理の娘だと思ってます。

主人公も、サトウさんに話を合わせます。

サトウさんと話すのは、バス停でだけではありません。

主人公は、仕事が休みの日に老人ホームへ行き、サトウさんの部屋で話すこともあります。

休日も、サトウさんの娘のふりをします。

なんでだろうと、疑問に思います。

何のために休日に職場へ行き、老人ホームの入居者と話すのか。

「ニセモノの矜持」でしょうか。どんなプライドなのか。

老人ホームの一利用者に、どうしてそこまでこだわるのか。

わたしには帰るべき実家もないし、頼れる家族もないそれは存在しているとかいないとかいう話でない「ない」だ

家族のない主人公が、偽物の家族でも演じたかったというのは、私の考えすぎかもしれません。

ある日、主人公は、清掃の仕事を辞めるよう言われます。

上司から、一方的にクビを宣告されます。

あなたの行動が少しずつ問題として報告されてます

と言われます。

備品が減ったり、備品がフリマサイトで出品されてたりと、疑いをかけられます。

のちに疑いは晴れ、上司に、

望むなら、この施設の仕事を続けても構いません勝手な話ですが、あなたの仕事は評価しています

と言われます。主人公は、

自分の内側に生まれた感情の名前がよくわからなかったし、よくわからないままその心の色を眺めた

  • 疑われてクビだと言われ、
  • 疑いは晴れたし、仕事ぶりは評価してるから、働いてもいいと言われる

何なんでしょうかね。

主人公は、清掃の仕事を辞めることにします。

タイトル「海岸通り」は、偽物のバス停の名前ですから、偽物の象徴とも言えます。

バス停以外にも、本作には偽物が登場します。

  • サトウさんの娘のふりをする主人公
  • ファミリー(ホーム)と称した、ウガンダ人のコミュニティ

ウガンダ人のコミュニティでは、オトウサンと呼ばれる、長の人物がいます。

オトウサンは、日本の文化を知らずにアフリカなどからやって来た人を、サポートしてます。

本物のオトウサンでなくても、日本に来た人の支えになってます。

オトウサンも、誇りを持って取り組んでることでしょう。

仕事と住居を失った主人公は、ウガンダ人のコミュニティに助けてもらいます。

ニセモノにも偽物なりの意味があり、役割があり、矜持があることを示す作品でした。

一方、謎も多くあります。例えば、

  • 主人公は名前を聞かれるが、明かされない(蛇みたいな意味だった気がする名前らしいが、不明。生まれた年にちなんだものらしい。へび、へび年、巳。「みい」? まさか「みさき」(サトウさんの娘の名前)?)
  • 主人公は欲しい名前があるらしいが、明かされない
  • バス内のにおいについて、乗客が「変なにおい」「知ってるにおい」「会ったことがある」と言うが、何のにおいか、明かされない

明かされない謎。訳があるのかもしれませんが、私には読み取れませんでした。

海岸通り

海岸通り

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