卒業式後の家族旅行
主人公の女子大生は、卒業式に出たくありません。
卒業式に行くか行かないかぐらい自分で決める。お母さんだって来るわけじゃないんだし、それでいいでしょ
母親は言います。
「行く」
「は?」
「家族みんなで」
家族で卒業式に出ると言うのです。
主人公は卒業式に出席することにしました。
卒業式の後、家族に連れられて電車で出かけることになります。
わかっているのは、
- 家族(父、母、主人公、弟)で、群馬の方へ電車で行くこと
- 1年前に亡くなった叔母が何かしら関係していること
です。叔母と主人公は、二人で旅行するほど仲が良かったです。
叔母が亡くなってから、主人公は、叔母と旅行した場所を一人で巡っていました。
そうした一人旅をするたびに、家族からは、自殺するんじゃないかと思われていたようです。
家族が向かう先はどこなのか。叔母は何に関係しているのか。
以下に興味がある人におすすめです。
- 景色
- 風景描写
- 叔母と姪の関係
- 家族旅行
一言あらすじ
主人公の女子大生は、卒業式に出席した後、家族に連れられて群馬の方へ行くことになった。亡くなった叔母が関係しているらしい。叔母と仲が良かった主人公は、日記を書くことで、叔母との記憶を探る。
主要人物
- 私:主人公。女子大生
- 叔母:私の叔母。一年前に亡くなった
お話よりも景色
物語よりも景色が描かれます。
それも、景色を見てどう思ったかではなく、
- 目に映る景色そのもの
- そこでなされた会話
が、中心に描かれています。
描かれる景色は、
- 叔母との旅行の日記
- その後の一人旅での日記
- 家族旅行での日記
- 家族旅行での日記を書いている現在
と、いくつも時間軸があることで、重層的です。
文章を読んでいながら、映像として立体的に立ち上がってきます。
物語性を重視する方は、苦手かもしれません。ストーリー性の強い作品は、風景描写ではなく、話の展開で読ませるからです。
物語の中には風景が必ずあるのに、描かれないのは、
「お話バカには景色なんてどうでもいいからよ」
これは作者自身の考えなのかもしれません。
「あんた、誰?」
日記帳を渡された主人公は、叔母に「私に読まれないようにね」と言われました。
叔母が亡くなった今、日記を読まれる心配はありません。
ですが、日記を書いているとき、
私は今、筆をすべらせたかも知れない。
という考えが頭をよぎります。
日記を読む人がいないなら、筆をすべらせることはありません。自分のために書く日記ですから。
なのに、筆をすべらせたと感じさせるとは、どういうことなのか。
作中で何度も書かれる「あんた、誰?」が主人公に向かいます。
調べた言葉
- 上製:上等に作ったもの
- 木訥(ぼくとつ):飾り気がないこと
- 庵(いおり):草木でつくった粗末な家
- 所縁(ゆかり):何らかのつながりや関わりのあること
- 柳に風:少しもさからわないで巧みにあしらうこと
- 軒(のき):屋根の下端の、建物の外壁より外に張り出している部分
- 意匠:創意や工夫
- 田居(たい):田んぼ
- かいがいしく:きびきびと
- 虚心坦懐:わだかまりがなくさっぱりした心
- 誂える:頼んで自分の思うようにさせる
- 社殿:神社のやかた
- 汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう):蔵書がきわめて多いことのたとえ
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