いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『最高の任務』乗代雄介(著)の感想【卒業式後の家族旅行】(芥川賞候補)

卒業式後の家族旅行

主人公の女子大生は、卒業式に出たくありません。

卒業式に行くか行かないかぐらい自分で決める。お母さんだって来るわけじゃないんだし、それでいいでしょ

母親は言います。

「行く」

「は?」

「家族みんなで」

家族で卒業式に出ると言うのです。

主人公は卒業式に出席することにしました。

卒業式の後、家族に連れられて電車で出かけることになります。

わかっているのは、

  • 家族(父、母、主人公、弟)で、群馬の方へ電車で行くこと
  • 1年前に亡くなった叔母が何かしら関係していること

です。叔母と主人公は、二人で旅行するほど仲が良かったです。

叔母が亡くなってから、主人公は、叔母と旅行した場所を一人で巡っていました

そうした一人旅をするたびに、家族からは、自殺するんじゃないかと思われていたようです。

家族が向かう先はどこなのか叔母は何に関係しているのか

以下に興味がある人におすすめです。

  • 景色
  • 風景描写
  • 叔母と姪の関係
  • 家族旅行
最高の任務

最高の任務

  • 作者:乗代 雄介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 単行本
 

一言あらすじ

主人公の女子大生は、卒業式に出席した後、家族に連れられて群馬の方へ行くことになった。亡くなった叔母が関係しているらしい。叔母と仲が良かった主人公は、日記を書くことで、叔母との記憶を探る。 

主要人物

  • 私:主人公。女子大生
  • 叔母:私の叔母。一年前に亡くなった

お話よりも景色

物語よりも景色が描かれます。

それも、景色を見てどう思ったかではなく、

  • 目に映る景色そのもの
  • そこでなされた会話

が、中心に描かれています。

描かれる景色は、

  • 叔母との旅行の日記
  • その後の一人旅での日記
  • 家族旅行での日記
  • 家族旅行での日記を書いている現在

と、いくつも時間軸があることで、重層的です。

文章を読んでいながら、映像として立体的に立ち上がってきます

物語性を重視する方は、苦手かもしれません。ストーリー性の強い作品は、風景描写ではなく、話の展開で読ませるからです。

物語の中には風景が必ずあるのに、描かれないのは、

お話バカには景色なんてどうでもいいからよ

これは作者自身の考えなのかもしれません。  

「あんた、誰?」

日記帳を渡された主人公は、叔母に「私に読まれないようにね」と言われました。

叔母が亡くなった今、日記を読まれる心配はありません。

ですが、日記を書いているとき、

私は今、筆をすべらせたかも知れない

という考えが頭をよぎります。

日記を読む人がいないなら、筆をすべらせることはありません。自分のために書く日記ですから。

なのに、筆をすべらせたと感じさせるとは、どういうことなのか

作中で何度も書かれる「あんた、誰?」が主人公に向かいます。

最高の任務

最高の任務

  • 作者:乗代 雄介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 単行本
 

調べた言葉

  • 上製:上等に作ったもの
  • 木訥(ぼくとつ):飾り気がないこと
  • 庵(いおり):草木でつくった粗末な家
  • 所縁(ゆかり):何らかのつながりや関わりのあること
  • 柳に風:少しもさからわないで巧みにあしらうこと
  • 軒(のき):屋根の下端の、建物の外壁より外に張り出している部分
  • 意匠:創意や工夫
  • 田居(たい):田んぼ
  • かいがいしく:きびきびと
  • 虚心坦懐:わだかまりがなくさっぱりした心
  • 誂える:頼んで自分の思うようにさせる
  • 社殿:神社のやかた
  • 汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう):蔵書がきわめて多いことのたとえ

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第162回芥川賞・直木賞の結果発表、会見、選評の感想はこちらです。