第162回芥川賞・直木賞受賞作発表
2020年1月15日(水)、芥川賞と直木賞の受賞作が発表されました。
芥川賞は、古川真人『背高泡立草』
雑誌掲載はこちらです。
受賞した古川さんは、
- 俺、これからどうなっちゃうんだろう
- 何でこうなっちゃったんだろう
という気持ちだそうです。
作品の背景となった九州の方言を使うことについて、
(受賞会見から)
方言を自分が得意だからというよりも、自分にとって一番すらすらと出てくる。
考えとか、その人の動作とかが出てくる言葉というのが、たまたま島の言葉であったり、福岡の言葉だった。
島の歴史を掘り下げようと思ったねらいについて、
(受賞会見から)
同じ時間を違う短編で書いてるよりも、短編一作ごとに、時間を思い切り飛ばすということをやってみたかった。
毎回、九州の田舎を題材に選ぶことについて、
(受賞会見から)
僕自身が思っていたのは、手札がない。
主人公ががらっと変わって、登場人物も全部変わって、語り口も全部変わって、っていうのをやれる作家さんはいらっしゃる。が、自分はそうじゃないというのは、ずーっと思ってた。
鈍重に、同じことをしかもくどくど。でも、希望的というか、自分の中で、読んで欲しいと思っている人に向かっては、もし読んでもらったら、どっぷりと伝わっていくような、遅い歩みの書き方しか自分はできないんじゃないか、そういうのにしか向いていないんじゃないか。
途中でちょっと違うのを書いてみようという器用さは、はなから持っていなかった。
別の題材に手を出さず、島の歴史ものばかり書いていたのが、手札がないからというのは驚きです。
そして、手札がないと言えるのがすごいです。
選評
選考委員の島田雅彦さんの会見は、産経新聞の記事からの引用です。
5作の中で比較的評価が高かったのは千葉雅也さんの『デッドライン』と古川さんの作品でした。
(『背高泡立草』について)
今作の特徴はその土地に根付いた歴史的重層性を巧みにすくい上げていて、単調な草刈りの合間に時空を超えたエピソードを織り込み、これまでの古川作品とはかなり毛色が変わっていた。時間的な複層性が入ってきたことが非常な評価の対象になりました。
意外だったのは、高尾長良さんの『音に聞く』と乗代雄介さんの『最高の任務』が厳しい評価だったことです。
前回に引き続き、受賞予想が当たりました。
受賞予想はこちらです。
古川真人『背高泡立草』の感想はこちらです。
直木賞は、川越宗一『熱源』
受賞した川越さんは、ドッキリにかけられているのでは、という気持ちだそうです。
辺境を題材にしていることについて、
(受賞会見から)
別々のグループの人たちが、触れ合ったときに、融和していったり対立していったり、いろんなドラマがあると思うんですけど、そこに興味がある。
アイヌについて記録することが、作品を通して多くの人に伝わることについて、
(受賞会見から)
世間にあまり知られていないことだったと思うので、世に広まるきっかけに僕の作品がなるのであれば、とても光栄には思います。
小説ですので、フィクションで、虚構であったり、僕が考えた想像とかも入っています。
正しい記録とかきちんとした経緯を調べられたいという人がもしいたら、それに答えられるような資料であったり情報であったりは、容易にアクセスできる。
より深く知りたいと思われた場合は、そういう情報にあたっていただければ、フィクションを一つ書いた人間としてはとても光栄。
資料を読んでいるときに何を考えていたかについて、
(受賞会見から)
物語に都合の良い人生を歩んでいる人は、誰もいないなと思ったんです。
物語に出てくるキャラクターであれば、確固たる信念があったり、矛盾のない行動というのが必要なんですけど、実際に生きている人は全然そんなことないんですね。
物語にするにはある程度、脚色とか虚構は必要になってきます。
そこをどう触って良いのかどうかというのを悩みながら、資料と向き合っていました。
事実をもとにした作品ですが、これは物語(フィクション)であると、川越さんは念入りに話しているのが印象深かったです。
選評
選考委員の浅田次郎さんの会見は、NHKの記事からの引用です。
1回目の投票で川越さんが一歩抜きん出る形となり、4つの作品による2回目の投票で相当な点数を獲得した。
(『熱源』について)
近年まれに見る大きなスケールで小説世界を築き上げ、登場する人物も生き生きと魅力的に描かれている。難しい資料を駆使して、大きな小説を書いた。
私の第162回芥川賞の予想はこちらです。
芥川賞・直木賞を予想した番組、ラジオ日本『大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想篇)』の感想はこちらです。