いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『断片的なものの社会学』岸政彦(著)の感想【分析も解釈もできない出来事】

分析も解釈もできない出来事

著者の岸さんは社会学者で、

普段は、人々の語りを聞き取るスタイルで、調査しているそうです。

ただ、本書は違います。

社会学として、語りを分析することは、とても大切な仕事だ。しかし、本書では、私がどうしても分析も解釈もできないことをできるだけ集めて、それを言葉にしていきたいと思う。(p.7)

本書では、分析や解釈からこぼれ落ちた、断片的な出来事が描かれます。

  • 飼い犬が死んだのに、インタビューを受け続ける語り手
  • 同じところで泣く戦争体験者の語り
  • 路上で演歌を弾く80歳の男性
  • 沖縄の住宅街にあるスナックで働くフィリピン人

NHKの「ドキュメント72時間」を思い出しました。

72時間、一定の場所にカメラを設置し、そこに来る人々を取材する番組です。

駅や、定食屋、スーパーなど。先日は「駅の地下街に設定されたピアノ」でした。

どこかから人がやってきて、何かを語り、どこかへ帰っていく。

いつも通っている人かもしれないし、たまたま立ち寄っただけの人かもしれません。

その番組は、分析や解釈をしません。

通り過ぎる人の話を聞いて、終わりです。

本書も同様です。

岸さんが、人の語りや自身の生活で見つけた断片を、語ります。

生活を送る上で気づかないような、だけど確かに存在するものです。

分析や解釈ができない、こぼれ落ちていった出来事に興味がある人におすすめです。

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

  • 作者:岸 政彦
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2015/05/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

人との距離

他人が嫌いで、ひとりでいることが好きだが、たまに、人の手が恋しいときがある。(p.120)

私も一人でいることは好きですが、他人の力を借りることがよくあります

カフェで、本を読んだり、文章を書いたりするときです。

家では集中力が続かないので、カフェへ行きます。

カフェでは、私とは接点がない人たちが、作業をしています。

勉強だったり、読書だったり、パソコン作業だったり。

作業している人たちを横目にすることで、自分も頑張ろうと奮い立ちます。

一方で、カフェに座るときは、少なくとも一つは席を開けます

隣に人がいる席に座るのは苦手です。

他人が私の隣の席に座ってくるのも好きではありません。

知らない人が近い距離にいると、居心地の悪さを感じるからです。

他人の力を借りていながら、他人がすぐ隣に座ることを嫌います。

カフェにいる他人」として一括りにしたものが、

カフェに座る隣の人」として、個人的なものにぐっと近づくからでしょう。

だからといって、一人も客がいないカフェには行きませんし、個室のネットカフェでは作業できません。

これからもカフェでは、一つ席を開けて座るでしょう。

本書を読んでいると、普段考えていないことを考えてしまいます

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

  • 作者:岸 政彦
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2015/05/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

調べた言葉

  • 称揚:ほめあげること
  • 痛飲:酒を大いに飲むこと
  • 暗澹:暗くて不気味なさま
  • ノミ行為:競馬などで、私的に馬券を売買する行為